(8)

 クソ。

 連絡用のWEBサイトに報告を上げる際にも隠語を使わないといけない筈なのに、肝心のモノの隠語が決ってなかった。

 何で、ヤクザに潜入捜査するのに、報告書内で使う「覚醒剤シャブ」の言い換えを決めてないんだよ?

『広島県内で、ある物品の値段が高騰している模様。情報求む』

 伝わる訳が無い。

『広島県内で、違法な白い粉の値段が高騰している模様。情報求む』

 隠語を使ってる意味が無い。

『針谷さんが常用してる薬の値段が広島県内で高騰している模様。情報求む』

 針谷ってのは、あのシャブ中の公安崩れの偽名だが……余計、判りにくい。そもそも、「上」は、あいつがシャブ中だって知ってるのか?

 仕方なく検索サイトで「覚醒剤」の巧い言い換えが無いかを調べていると……。

 コンコン……。

 俺が泊まってるネットカフェのブースのドアを叩く奴が居る。

「誰だ?」

 念の為、「使い魔」どもを呼び出す。

 ドアをゆっくり開けると……。

「これ、あんただろ?」

「えっ?」

 そこに居たのは……身長一六〇㎝台後半の痩せた小男。

 そして……そいつの手にしている携帯電話ブンコPhoneの画面には……。

「ど……どうなってる?」

 シャブ中の公安崩れを取り囲んでいるチンピラ5人が、苦しみ出して倒れ……そこに俺が駆け付ける映像が早送りで流れていた。

「訳は後だ……。ウチの『会社』の『魔法使い』が現場を調べたら、残留霊力が有ったそうだ。あんたも『魔法使い』系なんだろ?」

 しまった……。その処置を忘れてた。

「あんた、自分が何やったか判ってるのか? ここの地元のヤー公殺しちまったんだぞ」

「へっ?」

「あんたは……友達だか何だかを助けたつもりだろうが……結果的に、この辺りを仕切ってる『山能組』って暴力団を敵に回したんだ」

「え……えっと……。そもそも、何で、その映像が……」

「俺達は、広島県内ほぼ全地域の街頭防犯カメラの運用をやってるセキュリティー会社のもんだ」

「お……おい……」

「中々の腕みたいだが、このままじゃ、とっとと広島から出て行くか、ウチの会社に雇われるかしかしないと、あんたは殺される」

「マトモなセキュリティ会社じゃないだろ……」

「いや、普通のセキュリティ会社だよ。親会社が政治団体の『神政会』なだけで……」

「へっ?」

「あれ? 他県の奴は聞いた事が無いのか? 広島最大・最強の政治団体だ。以外は、ごくごく真っ当な保守系政治団体だよ」

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