(5)

「ここ、本当に、大丈夫なんだろうな?」

「刺青入れてる奴はお断りなんでな」

 広島に入って「3人目」と会う事になった場所は……よりにもよって広島県くれ市内のスーパー銭湯の食堂だった。

 四〇ぐらいの……しょぼくれた中肉中背の……まぁ、絵に描いたようなヤクザ映画で「ヤクザとつるんでる不良警官」の役で出て来てもおかしく無さそうな奴だった。

 公安は普通のサラリーマンみたいな外見になっていき、組対マル暴はヤクザと見分けが付かなくなる、と云う「伝説」が有るが……こいつは、ヤクザの更に出入り業者みたいな感じだ。

 ヤクザとつるんでる、と言っても、こいつがヤクザにペコペコしてる所しかイメージ出来ない。

「で、これの手筈は?」

 俺は左手の親指と人差し指で丸を作り、その中に右手の中指を入れる。

 一見するとS*Xの事に見えるが……要は広島県最大かつ……下手したら数ヶ月後には広島県唯一の暴力団と化している可能性が有る神政会に潜入する手筈の話だった。

「ルートは2つ。正採用とコネ採用」

「何だ、そりゃ?」

「お前らが就職したい『会社』の中にも派閥が有ってな……言わば現場叩き上げの派閥と、金儲けが巧い奴の派閥だ」

 要は……武闘派・殴り込み部隊と、フロント企業の経営なんかをやってる連中の間で対立が起きてるらしい。

「『叩き上げ』の方が向いてるなら、どっかで連中に実力を見せた方がいい。『金儲け』の方がしょうに合ってんなら、正規の『採用試験』を受けるしかないな」

「採用試験?『B』がか?」

 Bとは言うまでもなく「暴力団」の略だ。

「ああ、下手したらお堅い業種の民間企業よりも過去の経歴を洗われる。それに、正規の採用ルートだと時間が無い」

 そうだ……遅くとも1年以内に結果を出せなければ「宗主国」によって広島全域が焼き払われる。

 その場合、俺に事前連絡が来るかは……ビミョ〜だ。

 つまり、早い内に結果を出さないと命が危ない。

「あんたらの方で、俺達が就職予定の『アダルトビデオ制作会社』の『謎の凄腕監督』について何か情報は入ってないのか?」

「判らん。あんたが説明を受けた以上の情報は入ってない」

「じゃあ、どうするんだ?」

「この辺りは……『撮影』によく使われてる。確実に近々『撮影』が有る筈だ。その兆候が有ったら、すぐに連絡を入れる」

「手筈を練る間もなく、ぶっつけ本番か……。おい、ところで、あんたが『かけもちしてる』ってバレてないよな?」

「バレてるよ。安心しろ、3重スパイって事はバレてない」

「はぁ?」

使

 おいおい、仲間は馬鹿2人か。

 シャブ中の馬鹿と、危い橋を渡ってるのに自分が頭が良くて現実的だと思ってる馬鹿と。

 ……冗談じゃない。多分、3人の潜入捜査官の中で、一番長生きするのは俺だが、その事は少しも喜べない。

 このままじゃ絶対にそうなる。

 大体、ずっとこっちが隠語で話してたのに、とうとう「組」の実名を出しやがった。

 待て……まさか……おい、ここまで馬鹿揃いの奴らを、わざと「投入」する理由として考え付くのは……。

「おい……まさかと思うが……1つ訊いていいか?」

「何だ?」

?」

「はぁ?」

「だから、俺達以外にもブッ込まれてる野郎が居るとしか思えないだろう。俺達は最もマシな場合でも『前戯』で御役御免。本当に『中出し』する予定の奴は、他に居るとしか思えねえだろ」

 そう言って俺は、もう1度「S*X」を意味してるジェスチャーをやった。

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