(4)
ここ何年か……職場の健康診断で高血圧だの糖尿病一歩手前だの……挙句の果てに「酒と甘いモノの両方を減らさないと四〇前に勃たなくなりますよ」とまで言われるわ……。
それなのに……半月ほどで、体重を一〇㎏増やす羽目になった。
クソ、潜入捜査の報酬には、縮んだ寿命の分も含まれるんだろうな?
顔は変えた筈だが……イケメンではないが、人が良さそうな顔に見える、ってのも考えモノだ。
整形して、髪を染め、髭を生やしても……悪ぶってるボンクラにしか見えねえ。
しかも、髭がある程度以上延びにくいせいで……髭をずっと剃ってないのに、中途半端な流さの無精髭にしか見えない。
あげくの果てに、無理矢理太った副作用なのか、年甲斐もなく顔にニキビまで出き始めた。
「おい、もう1人居るって、聞いてたんだけどさ……」
広島に向かうフェリーの中で、目付きが悪い公安崩れにそう訊いた。
「は?」
「あの……もう1人は……えっと……その……」
こいつは、俺とは逆にガリガリに痩せてるが……。
公安関係だったら、普通のサラリーマンに見えるような奴が多い筈なのに……。
「あ……もう1人か……。広域
嫌な予感がした。
もう1人に関してだけじゃない。
俺も「魔法使い」「呪術師」の端クレで……しかも、専門分野は「死霊使い」。
こいつが「死」に近付いてるのだけは判る……。
しかし……。
何か、おかしい。
病人・怪我人・老人・呪詛を受けた奴……これまで見てきた「死」に近付いてる奴の、どれともビミョ〜に……「気」の様子やパターンが違う。
「ちょっと話が有るが……甲板で話したい」
「おい、何で……甲板なんだ? 夜中だぞ……」
「来い……」
「へっ?」
俺は……使い魔である死霊どもを呼び出す。
もちろん……この公安崩れが死霊の存在を認識出来るとは限らない。
しかし……気配は感じられるだろう。
多分、こいつは、俺に対して……自分でも理由が判らない恐怖感を感じてる筈だ。
「来い……話しが有る」
一〇分後……公安崩れは、甲板で、俺の使い魔達に拘束されていた。
もっとも、こいつにとっては、理由が判らないまま体が動かなくなってるようにしか思えないだろう。
俺は、公安崩れの上着を剥ぎ取り、袖口をまくり……無い……予想してたモノが……。
いや……待て……。
俺はペンライトを口に咥え、奴の左手の指の間を1つ1つ確認し……。
「おい……公安さんよ……何で、指の間に注射痕が有る?」
フザケんな……レ○プ魔だとは聞いてたが……それに加えて……シャブ中かよ……。
「だ……大丈夫だ……シャブは……抜けてる……筈……」
「最後にやったのはいつだ?」
「……潜入の準備をやってる間……やってない……」
「本当か?」
使い魔の1匹が……公安崩れの頭に手を突っ込む。
……と言っても、物理的実体が無い霊力で構成された「死霊」がやってる事を、俺の脳が無意識の内に「視覚」に「翻訳」しているだけだが……。
ともかく、死霊が公安崩れの脳に「恐怖」を送り込む。
「す……すまん……3日前にやった……。でも……もう抜けてる筈」
「あああ……阿呆かああああッッッッ⁉」
「あのなあ……で……でも……あんたも聞いてんだろ……俺がクソ
「何、逆ギレしてんだッ‼ 全部、てめえの自業自得……あっ……やめろ、殺すなッ‼」
こいつにシャブをやった言い訳が有るなら……俺にも、こいつを殺しかけた言い訳が有る。
危なかった。
マトモな訓練をやった「魔法使い」「呪術師」は、自制心だって普通の人間より上だ。
だが、それでも、怒り狂いかけて当然の状況だった。
ともかく、俺は、俺の怒りに従って、公安崩れを憑り殺しかけた死霊どもを、あわてて制止した。
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