第61話 ふたりの選択

「で、ここで俺は何をやればいいんだ」


 川上は俺がラインを送ると、すぐに行くからと返信をしてきた。放っておける状況でないことが分かったのだろう。急いで来たのか、呼吸が乱れていた。川上が息を乱すくらいなら、相当の距離を走って来たのだろう。聞きたいが怖くなるのでやめておいた。


 川上は会釈だけすると薫の隣の席に座った。薫は川上のことを知っていたのか、驚いた表情をする。


「嘘!? もしかして川上さん」


「アイドルのマネージャーだと思っていたが、俺のことを知ってるのか?」


「知らないわけないでしょ。あの伝説のバンド、紅の元ギターリスト。この日本中で知らない人なんていないでしょ」


「そうか……」


 川上は一言だけ発すると、言葉を止めた。コーヒーを一口飲むと目をきつく瞑り、瞬きをして話し出した。


「雪奈を雄一のドラムの先生にお願いしたのは、俺だ。ややこしいことになっているようだが、俺も知り合いだとは知らなかった。この部分は謝るよ。ただ、雄一には2週間後に、俺のバンドで初デビューしてもらう。そのためには時間がなかった。能力のある人間じゃないと間に合わないんだ」


「あなたの考えは、分かったわ。でも雄一くんは……」


「ふたりの間に過去、恋愛感情があったことは俺もはじめて知った。そして、スノープロジェクト引退後に告白をオッケーしたことも……」


「困るわ、アイドルはスキャンダルに弱い。悪い噂はすぐ広まってしまう。だから、わたしは恋愛をするなと言ったのよ」


 隣に座る雪奈が不安そうに川上を見る。川上の判断が彼女の未来を決める。死刑宣告のようなものだった。俺は川上ならば、雪奈の望むようになると信じている。だから、ここに呼んだのだ。もし、雪奈をここで失うのであれば、俺は川上と揉めてでも雪奈を引き止めようと思った。


 綾女と雪奈、どちらが好きかなんて今は選択できない。選べないからと言って、片方を切り捨てるなんて俺にはできない。


「じゃあ、こうすればどうだろう」


 川上は嬉しそうな表情で薫を見た。好きなおもちゃを手に入れた子供のような笑顔だった。


「グループは当初一つで考えていた。これを二つにしてもいい。綾女がボーカルのバンドと雪奈がボーカルのバンドを作る。話題性で凄いことになるぞ」


「綾女さんってあまり知らないんだけど」


「大丈夫さ、俺が目をつけたボーカルだ。きっと、びっくりすると思うぜ」


 ニッコリと笑顔で薫を見る。薫も川上の描く未来に興味を持ったようだった。


「二つのバンドを作って、片方に雪奈を入れると言うのね。でも、バンド内でも恋愛があると困るわよ」


「恋愛、恋愛って、バンドに色恋は関係ねえよ。まあ、同じメンバーだと色々と文句もあるだろうから、雄一は綾女のバンドに入ってもらうことにする、ならいいよな」


「アイドルでやっていくのも、そろそろ限界かと思ってたから、川上さんのプロデュースするメインボーカルとして雪奈を使うと言うのは賛成よ。きっと凄いことになるわ。私もワクワクして来たわ。ただし……」


 薫は雪奈の方を向いて、じっと瞳を見る。思わず雪奈は目線を逸らして、不安そうに俺を見た。


「それよ、それよ。あなた雄一くんと同棲してるでしょ。それはまずいわ」


「同棲じゃないわよ。愛ちゃんの部屋を借りているだけ……」


「それがダメなの。悪い噂は予想以上に広まるのが早いわ。もしバレたら、マスコミが放っておくと思う?」


 隣に座る雪奈は不安そうに目線を自分の手に移し、じっと見ていた。綾女と一緒に暮らしている事を気にしているのだ。綾女とは肉体関係まで進んでしまっている。負けてしまうと言う気持ちがハッキリと顔に出ていた。


「分かった、こうしよう」

 川上はそれだけ言うと綾女を呼んだ。何故、綾女が二階から呼ばれたのか俺も雪奈も当の本人の綾女ですら理解できないでいた。


「薫さん、このふたりをマンションで同居させたいんだ。お願いしてもいいかな」


「私はいいわよ。でも、それでいいの?」


 薫は雪奈と俺を交互に見た。綾女も不安そうな表情をしていた。俺もふたりの距離が遠くなってしまうことに不安を感じた。ふたりが離れて行くような気がした。川上は俺と綾女の恋愛を応援してくれると言ったが、嘘だったのだろうか。


「雄一、ちょっと来い」


 俺は玄関から中庭に出た。川上は星空を見つめていた。


「お前は、もう優柔不断ではいられなくなる。綾女を選ぶのか、それとも雪奈を選ぶのか。近い将来決めなくてはならなくなる」


「同じ場所に住めなくちゃ、もう……」


「もう、どちらかとしっかりと付き合うと決めなければ、会うことも難しくなるだろうな」


 同居している限り、この中途半端な関係を維持することができる。川上は最初から分かっていたのだ。だが、ふたりが別の場所で住むのであれば話は別だ。俺は一緒に暮らせなくなるため、どちらかを選ばなければ会うことはできない。


 川上は俺の肩に手を置く。じっと俺を見据えて、ゆっくりと問いかけた。


「綾女を選んでも、雪奈を選んでも自由だ。俺はそれに対しては文句は言わない。薫だって、バンドになれば前ほどは恋愛にとやかく言わなくなる。お前もバンドメンバーだからな。でも、中途半端な状況を続けるのならば、これからは上手くいかなくなる。今じゃなくてもいい。どちらかを選べ」


「綾女か、雪奈ですか。俺も今どうしていいか分からないのです」


「急ぐ必要はないさ。少し距離を取って考えて見るのもいい。答えはそう難しいわけじゃない。それにしても、あのふたりに比べてお前はどちらかと確実に付き合えるんだ。そういう意味では、本当にお前はラッキーだよ」


 川上はそれだけ言うと、笑いながら部屋に入っていった。残された俺は考えていた。綾女か、雪奈か、どちらかをいずれ選ばなければならないのか。


――――


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