第56話 対決!?
「綾女が抱けるなら、わたしだって抱けるよね!」
間違っていない。間違いではないのだけれど、俺はそうではないと思っていた。
綾女は現在の恋人だ。雪奈は過去の憧れの人だったのだ。出会うことがなければ、思い出として終わるはずだった。だから、ドラムを教えてくれると名前が出た時も、断らなかった。
明らかに目の前の雪奈は、落ち着かなかった。うまく行かないことにイライラしていた。少し前まで有名アイドルグループでセンターをしていたのだ。綾女が彼女であっても、簡単に奪えると思っていただろう。しかも、俺は親衛隊長と呼ばれるくらい、雪奈に当時入れ込んでたのだから、勝負はやる前からついていたはずだった。
「どうして、なの。なぜ、何も言ってくれないの?」
俺が足を踏み出せないでいると、雪奈は俺の腕を掴んだ。焦りを感じているように見えた。雪奈は綾女のことを知っているだろう。綾女はアイドルから堕ちて、アダルト女優をやっていたのだ。そうであれば、勝敗なんてついているはずだった。
正統派アイドルを引退した女の子と、アイドル堕ちした女の子。
「雄一、なんか言ってよ。わからないよ。なぜ、わたしだけが話してるの? わたしのこと好きだよね!」
「俺は雪奈が好きだ。でも綾女も同じくらい好きなんだ。でも、俺は綾女は抱けても、雪奈は抱けない」
「なぜ、同じくらい好きなのなら、ふたりとも抱けるよね?」
「違う。俺と綾女は出会い好きになり恋人になってキスをした。それまでにも色々あった。それを乗り越えて今がある。でも、雪奈とは……」
「そんなの仕方ないじゃない! わたしは少し前までアイドルだったんだからさ」
「だから、積み重ねがない雪奈は抱けない。雪奈とは今どうこうは考えられないんだ」
両方を選べるのならば、俺は喜んでそうしただろう。でも、それは結果の先送りにしかならない。ふたりにとっては残酷な結末だ。
綾女を失いたくなかった。雪奈が俺の前から去るのであれば、彼女の選択だ。仕方がないと思った。綾女とは、これまでに愛を育んできた。雪奈とは、親衛隊長だったあの時の記憶しかない。
「わたしがこのまま去ったら、呼び止めてくれないのかな?」
「呼び止めることはできない。そもそも俺と雪奈は、あの振られた時から何も変わってないんだ。今どうこうはできない」
「冷たいんだね」
「冷たいんじゃないんだよ。今は綾女を失いたくないだ」
「でもさ、……綾女さんって元アダルト女優だよね」
俺は反射的に雪奈の方を強く睨む。俺は人の弱みにつけこむ奴は嫌いだ。
「それ以上言ったら、俺はお前を許さない」
「ごめん、分かったよ。綾女さんに本気なんだね」
雪奈は一つ大きく呼吸をして、言葉を繋いだ。
「あーぁ、雄一とつきあえると思ったのになあ」
「だから、これから先はわからないんだって。雪奈のことは好きだ、あの親衛隊長と言ってくれた時から何も変わってない」
「でも、綾女ちゃん好きでしょう。わたし可能性低いじゃん」
雪奈はトントンとスキップした。嬉しそうにニッコリと笑う。
「わたしは、綾女ちゃんみたいに捨て身にはなれないよ」
「違うよ、本当に綾女は別れようとしてたんだよ」
雪奈は興味深げな視線を俺に向けて微笑んだ。綾女に対して思うところがあるようだ。
「雄一、面白いこと言うね、違うよね。ね、そこに隠れてる綾女ちゃん?」
「えっ、綾女なんかいないよ」
綾女なんか、この場所にいるはずがいない。だから本音で話してきた。
「……ごめんなさい」
ホテルの影から綾女がでてきた。本当に申し訳そうに呟いた。俺は変なことは言ってないよな、余計なことは言ってないと正直ホッとした。
「いても立ってもいられなくなった。雪奈ちゃんのこと、好きになっても仕方がないとは言ったけども、実際好きになられると思うと我慢できなかった」
「綾女、ごめんな。心配かけて」
「違うよねぇ、綾女ちゃん。初めからここまでに至る最強のカードを切ったのよ。わたしに告白されたと聞いた時、焦ったはずよ。行かないでと言いたかった。でもね、それじゃあ、勝てない。だから、賭けに出た。勝てる賭けだったよね」
「そんなことないよ、最初は本当に諦めてた」
「じゃあさ、何で抱かれたの? 諦めてたんでしょう。じゃあ、なぜ最後に手を取ったの?」
「それは……」
「代わりに答えてあげるよ。初めから逃げたら追いかけると知ってた。だから逃げたの。で適当なところで捕まるつもりだった。きっと雄一は手を伸ばす。その手を取らなければ、完全に心を捕らえられるよね」
「なぜ、捕らえられるんだ。逆だろ?」
「そうかなぁ。逃げたんだよ、それで拒絶された時どうした?」
「抱くしかない、そうすれば捕まえられると思った」
「だよね。綾女も抱かれたら、かなり優位に立てる、と思った。童貞だから貞操観念強いよね。どうかしら?」
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったけども結果的にはそう。初めはもう無理と思った。でも追いかけてくれて、手を伸ばしてくれた。ここで手を取らなければ、きっと勝てると思った。言われた通りだよ。ごめんなさい」
「ねえ、綾女はずる賢い女なんだよ」
「なんでだよ、ずる賢くないだろ。手を伸ばしたのは俺で、抱きたいと思ったのも俺だ。それに俺は綾女とは付き合ってるんだよ」
「ふうん、分かった。そう言う解釈をするのね。じゃあさ、わたしも雄一とこれから愛を育んでいけば勝てるよね」
「勝てるとは言ってないよ」
目の前の雪奈は俺から目を外して、綾女の方を向き、じっと睨んだ。
「綾女ちゃん、雄一の家で同棲してるよね」
雪奈の強い言葉に俺は綾女を見る。驚いた表情をしていた。俺も驚いた。そんなことまで知っていたのか。綾女は気持ちを落ちつけているようだった。
「同棲じゃないよ。間借りさせてもらってるだけだよ。わたしの家、スタジオ兼用で人の出入りも多いから」
「じゃあ、わたしも雄一の部屋間借りさせてもらうよ、いいよね。その方がフェアでしょう。ドラムを教えてもらう代わりと言うことで、どうかな」
俺は焦った。なんなんだよ、これは。元有名アイドルが、俺と同居。それってやばくないのか。雪奈は俺の考えてることに気づいて補足した。
「むしろ今の方がやばいかも。だってさ電車まで送ってくれてるでしょう。同居して家とスタジオだけなら、気づかれることも少ないし。確かに家を知られたら逃げられないけどね、そうなったら……」
嬉しそうに笑顔で微笑んだ。
「ニュースになるかな。熱愛報告ってさ。で、インタビューされて、真剣交際してますって言えばいいかな?」
やめてくれよ、そんなことになったら、綾女はどうなるんだよ。
「大丈夫よ、元アイドルだからさ。そんなに騒がれないと思うよ、多分ね」
悪戯っぽい笑顔で俺を見つめた。俺はドラムを上手くなり川上さんに認められたい。今は雪奈の提案に乗るのが一番なような気がした。俺は綾女を見た。
「わたしは同居しても、文句は言えないよ」
優しそうな笑顔でニッコリと笑った。正直誰よりも可愛かった。どんな結末になっても俺はこの時見た笑顔だけは忘れない。そう思った。
――――――
いかがでしょう。一部にハーレムを望む声が強くなりつつあるこの頃。純愛で行きたいのですがね
もう純愛じゃい?
そうかも知れませんね
それでは今後ともよろしくお願いします
そろそろ裁判です。一気にストーリーを進めていってるつもりです。
よろしくお願いします。
星いただけると嬉しいです。
併せてよろしくお願いします。
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