第45話 警察署にて

 警察署で1時間程度、調書作成に付き合わされた。質問形式で、佐藤が質問して俺と川上が答える。もともと綿密な打ち合わせをして決行したのだ。佐藤も分かっているのか、調書は簡単にまとまった。


 調書作成中、綾女が隣に座って片時も離れない。腕に手を回して力を入れる。腕を抱くようにして、胸が押しつけられる。正直この格好は結構恥ずかしい。


「調書は、これくらいでいいかな。相手に動きがあったら、川上に連絡するわ」


 調書の作成が終わると川上と話をしていた。パトカーで家まで送ってくれるとのことだ。部下に指示を出していた。テキパキしていて、相当優秀なのが良くわかる。調書が書かれた用紙を部下に回して、川上と今後のことを話していた。綾女に視線を向ける。椅子に座って待っている間、じっと俺を見つめていた。


「ねっ、痛くない? 目のところ切れてるよね」


 バッグから絆創膏ばんそうこうを取り出し貼ってくれた。他に傷がないか上から下へとゆっくりと視線を送る。大きな傷がない事を確認すると、目の前の川上の方を向いた。明らかに不満な表情をしていた。川上は佐藤と話が終わったのか、どうしたと綾女に聞いてくる。


「なぜ、わたしじゃなくて雄一を連れて行ったのですか。それと日付、嘘つきましたよね」


「女連れてってどうする? 聖人に抱かれたいのか」


「な、何言ってるんですか?」


「お前を連れて行ったら、聖人はお前に毒牙を向けようとするに決まってるだろ。殴られなきゃ、暴行罪が成立しない。だから連れて行かなかった」


「言いたいことは分かります。でも殴られるのなら、雄一じゃなくても」


「好きな男が殴られるのが辛いのはわかる。でもさ、里帆と幼馴染で元彼氏、親しい間柄で言えば連れて行けるのは雄一しかいないだろ」


「なら、もっと多人数で行けば良かった、と思います。何故、嘘までついて。撮影の日が今日だと言ってくれなかったのですか」


「多ければ向こうも警戒するだろ。それとお前を連れていくと聖人は、お前を捕まえることばかりに集中して、暴行が成立しなくなる。連れて行くのは女じゃダメなんだよ」


 言われた理由は理解できるが、それでも不満は収まらないようだった。


「わたし、雄一に何かあったら生きていけないよ。本当にごめんね」


 再び俺に視線を向ける。唇がつきそうになるほど、近い距離でじっと見つめていた。


「もう、馬鹿なんだから。雄一が何かあったら一番苦しむのわたしなんだからね。もうしないでね。これからはずーっと監視してるんだから……」


 俺の胸に身体を埋める。綾女の両腕にそっと触れる。本当に細く柔らかい。簡単に折れてしまいそうな身体だ。聖人の父親はこの身体を……。想像しただけで嫉妬の炎が渦巻いてくる。全てを忘れさせるには、俺が抱くしかないのだろうか。


「おいおい、警察署でラブシーンは頂けないなあ」


 嬉しそうな表情で佐藤が俺を見てそう言った。川上に視線を向けて、送る用意ができたからと伝える。


「じゃあ、俺は歩いて帰るからさ」


 川上はそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。

 パトカーに乗り込み、警察署を後にする。綾女の家の前で降ろしてもらった。玲奈は帰ってしまったのだろう。ライブハウス兼自宅の明かりは消えていた。


「愛に話を通さないといけないから、今日はごめんな」


「いいよ、雄一の空き部屋の整理とかもしないといけないよね。わたし明日行っていいかな」


「うん、予定も無くなったしね。学校終わったら家の整理をしようか」


 綾女は嬉しそうに俺を見つめる。瞳をゆっくりと閉じた。綾女を抱きしめ唇に、そっと触れた。綾女が舌を入れてくる。何度も舌を重ねた。いつになく激しいのは、俺が殴られたからだろう。30分くらいずっとそこにいた。


「家、寄ってく?」


 俺は少し迷った。綾女の言っている意味がわからないほど、俺は鈍感でもない。恐らく目の前の綾女は、好きな男と寝たことはない。今までの行為は、お金を得るための手段であった。好きでもない男に抱かれるのは、喪失感しかなかったのではないだろうか。それでも、俺は迷っていた。古い考えかもしれないが、今抱く時ではないと思う。愛との関係をきちんとして、はじめて許されるような気がした。


「ごめん、まだ……」


「わかってるよ、だから気にしないで。その代わり思いっきりぎゅーしていい?」


「うん、俺もしたい」


 ふたりして、その場でぎゅっと抱き合った。人通りこそ少ないが、たまに出てくる人の視線を何度か感じた。見せてやればいいと思う。俺は綾女との子供が欲しいな。もちろん、その前にやらなければならないことがたくさんある。川上にバンドメンバーとして認めてもらうことも重要だ。綾女からゆっくり離れた。


「俺、ドラム頑張るからさ。みんなに認めてもらえるようになるから」


「うん! わたし応援するよ。それとさ、ひとりでがんばらないでね。わたし雄一の彼女なんだから、いつでもわたしを頼ってくれていいんだからね」


 綾女がじゃあね、と嬉しそうに家に帰って行く。俺は何度か手を振って見送った。さて、帰るか。俺は、これから愛を説得しなければならないのだ。見切り発車で約束したけれども、タイミングが悪いなあ、とも思った。愛ならきっと分かってくれるはず。俺は愛がいる家へ向かった。


――――――


一人称視点故に読者の方には見えないところが結構あったと思います。

やっと見えはじめたかな。


雄一は綾女を守れる男にならないといけません。乗り越えないといけない壁も多いかもしれませんね。


そして、聖人と父親。聖人は逮捕されましたが、さてこれからどうなることやら。芸能界の闇に迫りそうな感じがしますね


これからもお楽しみくださいませ。

まだまだ中盤。これからです。


皆様のおかげで伸びてきました。


フォロー、星で応援していただけると凄くありがたいです。


今後とも、『寝取られ幼馴染』をよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る