第44話 真相

 仲良く笑いあうふたり。川上は縛られながら終始余裕の表情だった。今の状況を考えると21対3。それも2人は縛られているのだ。どんなに強くてもこれだけ多いと話にならない。何故ふたりは余裕なのだろうか。そう言えば川上は、時間ばかり気にしてたっけ。


「お前たち、今の状況分かってんのかよ」


 聖人は無視をされてることと里帆を逃したことに腹を立てていた。屈強な親父の肩に手を乗せる。


「なあ、おっさん。この状況どう責任取ってくれるんだよ」


 目の前の親父は豪快に笑う。


「ほお、これはどんな状況なのかな?」


「見れば分かるだろうが。お前、里帆を逃したよな。おかげで撮影もできねえし、今から多人数で犯す予定だったのに。撮影を延期したら、その分お金だってかかるんだぜ。お前、その分負担してくれるのかよ」


 聖人は親父に殴りかかろうとした。当たる前に避けられる。


「うまく避けられたとしてもこんだけの人数だぜ。逃げれるわけないよな。お前ら、こいつを捕まえろ」


 20人の男たちが、目の前に立つ。捕まえるためにロープを持って、ジリジリと距離を縮めた。


「おっさん、そろそろいいんじゃね」


 後ろ手に縛られた川上が目の前の親父に声をかける。


「まあ、捕まるのもいいが、それじゃカッコ悪いよな。部下への威厳も消し飛ぶだろうしよ」


「何言ってるんだよ、お前殺すぞ」


 聖人が相当腹を立てている。状況的には完全優位なのに、余裕の笑みさえ浮かべるふたりの姿。不気味でさえあった。


「おい、お前ら入っていいぞ」


 親父が手を上げた瞬間、扉が開く。大勢の警官が一気に雪崩れ込んできた。


「暴行の現行犯で逮捕する」


 沢山の警官に聖人が最初に手錠をかけられた。笑みさえ浮かべていた理由に気づき、川上を睨んだ。


「くそっ、お前警察とグルだったのかよ」

 

 数分もしないうちに21人全員が警官に取り押さえられる。


「まあ、今は暴行だけだが余罪も山ほどあるだろうね。例えばレイプ同然の撮影とかね」


 目の前の親父は豪快に笑った。俺はその姿に圧倒される。捕まって殴られる事によって、被害が成立する。川上は現行犯逮捕を狙ったのだ。里帆を逃したのは、撮影という汚名を里帆に背負わせないためか。


「本当はさ、被害女性がいた方が楽なんだけどね。まだ被害は成立してないしね。未遂にはなるけど、それよりも」


雑居ビルには撮影されたと思われる猥褻わいせつなDVDが所狭しと積まれていた。


「こっちの被害者割り出した方が早いよね」


「あぁ、被害届は警察に届けられてるんだよ。ただ、撮影現場もわからなかったし、事件全般を撮影したマスターテープもないから、撮影が合法だと言われると出回ってるDVDだけでは令状がなかなか下りないんだよな」


 目の前の親父は大きく笑った。縄を解きながら親父は警察手帳を見せてくれる。手帳には刑事課佐藤優也と書かれていた。捜査一課の所長だった。


「おふたりはどんな関係なんですか?」


「綾女のこと知ってるよな。これあいつには内緒だぞ」


 川上は俺に視線を向けて一区切りついて話し出した。


「綾女のDVD撮影に聖人の父親が関与してるんだよ。あいつさ、母親亡くなった時に多額の借金相続してしまってさ。拒否すればいいものを事務所を立て直すと意気込んで、全部継いでしまったもんだから、取り立てに悩んだんでいたんだよ。結局、相談したのが聖人の父親なんだよな。芸能界干された理由も知らなかったし、母親と仲良かったから、親切にしてもらっていたと思ったんだろう。うまく騙されて弱いところに漬け込まれてな。処女奪われた挙句、借金返せる方法があると言われて人気AV女優にさせられてしまったんだよ」


 川上は腹を立てて、壁を叩いた。


「俺、綾女がアイドルになった時にさ、コラボイベントで俺のグループと組むことがあって、彼女の歌声聞いてたから、驚いたんだよ。彼女なら絶対成功すると思ってたからさ。アイドルもいつの間にかやめて、アダルトDVDなんかでてて、問い詰めたら泣きながらそう語った。その時、俺はこれを事件にできないか何度も所轄を訪れたんだ。そこで仲良くなったのが、こいつだよ」


「本当に驚いたよ。真剣に綾女を救いたいんだって訴えてきてね。ただ、こう言ってはなんだけど、撮影は合法に行なわれてて、契約書もあって逮捕できるものがなかった。だから、この時を待ってたんだよね」


 現行犯逮捕で捕まる聖人達。余罪などいくらでもあるだろう。川上はその光景を見ながら、嬉しそうに笑った。


「やっと動き出したよ。俺さ、綾女がAV落ちしたと聞いてな。いても立ってもいられなくてさ。バンドメンバーに突然辞めると言って出てきたんだよね。圭一に相談したら、あいつなんて言ったと思う」


 嬉しそうに過去を思い出していた。今まで言える機会がなかったんだろう。


「俺もやめていいっすか、ってよ。カッコ良すぎるだろ。綾女のところに行ったら玲奈が泣きながら助けを求めてきた。綾女のことを一番に考えてたみたいだからさ。もう一つ返事で事務所に入ったよ。それから撮影はなるべく減らさせた。とは言っても事務所の借金返さないとならなくて、しばらく苦しい思いさせたけどな」


「今は借金はないのですか?」


「少しはあるけども、気にする程でもないさ。それより聖人の父親とこれからガチで戦うことになる。今回のことで俺たちを敵視することは間違いない。まあ、アイドルと違ってバンドは潰されることはないだろうがね。ただ、出演などで圧力をかけてくる可能性はある」


 川上は俺の肩に手を置いた。


「俺は川上の親父もひっ捕まえて逮捕させてやるつもりだ。聖人の逮捕は宣戦布告ってもんだ。でっ、だ。いくらカッコよく言ってもさ。俺は優奈を守らなくちゃならない。だからさ……」


 俺の方をじっと見つめる。


「大変な困難はあると思う。だから、綾女の精神的な拠り所として綾女を守ってくれ。それはお前にしかできないからさ」


 嬉しそうにそれだけ言って、事務所から出て行こうとする。


「おいおい、川上とそこのお前、被害者だろ。ちゃんと被害届提出してもらわんと事件にならんだろ」


「めんどくせえな、ってことらしい。雄一、警察署に行こうぜ」


 一階に待機していたパトカーに乗り込み最寄りの警察署に向かう。警察署に着くとそこに綾女がいた。


「バカっ、こんなになって。なんで言ってくれなかったの」


 綾女が泣きながら抱きついてくる。どうして綾女が警察署にいるんだ。


「まあ、そんなサプライズあった方がお前も嬉しいと思ってさ」


 川上は満足そうに微笑んだ。こんな嬉しそうな川上を見たのは出会って初めてだった。


「大丈夫、痛いよね。こんな危険なことして、もし何かあったらわたし……」


 目の前の綾女は、凄くもろくすぐ壊れてしまいそうに思えた。俺も身体に手を回し力を入れる。絶対守るよ、守れるだけの強さが欲しい。俺は単純にそう思った。



―――――


お話が大きく動く回でした。

今まで主人公側しか見えてなかったので、綾女視点で言うとこんな感じになります。


良ければ星×3頂けると喜びます。


読んでいただきありがとうございました。

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