第35話 撮影会はいつ、どこで行われるのか?
「待てよ、なぜ雄一が、ここにいる!」
「雄一は、わたしを守ってくれるって言ったから……」
「話になるか。お前は今までの俺たちの苦労を全てぶち壊すつもりか」
川上は部屋に入るなり、俺を睨んだ。予想していたのだろう。綾女に食ってかかった。
「圭一も同じ意見だよな」
圭一と呼ばれた茶髪ロン毛の男は、川上よりは理解がありそうだった。川上の知的さに比べると、チャラ男に見えるのはその容姿からだろうか。
「いや、俺はいいんじゃないかと思う。聞くと里帆ちゃん、山本くんの幼馴染じゃん。俺たちのことより言うこと聞くだろうし」
頼むぜと言う表情で俺を見てきた。見た目と同じく軽い性格である事は間違いなさそうだ。
「わけあるか。そもそも足手まといなんだ。俺たちのように訓練もしてない素人が戦えるわけがない」
「それはわたしも同意見だね」
玲奈は俺をじっと見た後に腕を組んだ。身長は低いが態度は大きく見た目とのギャップがあった。確か飲み会では俺に絡んでたっけ。男に振られ続けてると言うが相手が悪いのだと思う。幼女趣味な相手であれば間違いなくドンピシャだと思った。
「今回はヤクザが絡んでる。銃だって使われないとは限らない。そんな中で素人が何ができるの。それこそ、死ぬよ。特に綾女あなた、雄一守って死にかねないね」
俺は綾女の方を見る。綾女は気まずそうな顔をする。
「これはお遊びじゃないんだ。俺たちは同じ目的を持つ仲間だけども、もしもの時は相手のことを切ることができないとならない。今の綾女は絶対雄一を切れない。だから、俺は連れて行くのは反対だ」
川上の言うことも一理あると思う。確かに綾女は俺を切ることなんて出来ない。彼らがどれだけ苦労したかは知らないが、今回の一戦に将来をかけて来たことが言葉の端々に見えた。
「みんな、おかしいと思うよ。誰かが犠牲の上に成り立つ未来なんてないと思う。わたしは、雄一くんと付き合って、彼を守りたいと強く思ったし、守りあってこそ戦えると思うよ。それにさ、川上は雄一がいるくらいで戦えないくらい弱いの?」
「馬鹿言うなよ。俺の強さはお前が一番よくわかってるだろ」
「じゃあ、問題ないんじゃない」
「分かったよ。綾女が危なくなったら、俺が助ければいいんだろ。でもな雄一」
目の前の川上は、俺に視線を合わせる。
「俺はお前が危なくても、手を貸したりはしないからな」
川上は俺を睨みつけた。この人は自分にも厳しいがそれ以上、他人に厳しいと感じた。
「ただ、これだけは覚えとけ。生き残りたいなら、今から言う事が出来ないと話にならない」
「戦いの極意ですか?」
「そんなものはない! 拳銃の話だ。銃を構えられたらすぐに左右に避けろ。拳銃は相手の狙いをつける時に、隙ができる。そして近づいて相手を蹴るんだ。これはお前には難しすぎるから、俺がやる。お前は避けることだけを考えろ」
「銃口を動かして来たりしないのですか」
「狙いを定めた瞬間だけは、動かせない。特に日本人はヤクザでも実践経験が少ねえんだ。俺みたいに海外の暗殺部隊にいたものからすると、拳銃なんて怖くない」
この人は一体どんな経歴の持ち主なんだ。暗殺部隊に所属なんて肩書き、日本じゃ聞かない。
「驚かせてどーするのよ。それ子供の時の話だろ」
「俺は物心ついた時には、死と隣り合わせだった。親からは生きるためには、殺すしかないと教えられた」
川上は俺の方から、ゆっくりと綾女の方に向き直る。
「俺は甘えたやつが嫌いだ。もちろん雄一だけの話じゃないが、日本で幸せに生きているやつが、無理してこの生き方を選択する必要なんてない。綾女は可愛いだろう。でも顔が可愛いというだけだ。好きになるにはリスクが多すぎる。綾女だってわかってたはずだ」
「確かに分かってたよ。いや、そのつもりだった。でも雄一見てると、その気持ちが消し飛ぶくらいに好きになった。本当に今は一緒にいて楽しい」
「それは、お前にないものを雄一が持ってるからだろうけど、綾女はいつか雄一と別れないといけない日が来る。その事は分かってるよな」
「この前も言ったけど、そんなのわからないじゃない。わたしはもし別れることになるとしても、今一緒にいる事を諦めたりしない」
綾女は不安そうに瞳を揺らせながら言った。アイドルになり有名になれば、俺と一緒にいることは難しくなる。彼女が望む終着点が有名アイドルであれば、いずれ向かう破局。避けられない未来があるような気がした。
玲奈は間から話を割り込んでくる。
「でもさ、今必要なのは綾女がやがて辿るかも知らない未来じゃないよ。今は戦わないとならない相手のことだよ」
川上は綾女にもう一度、雄一を連れて行って良いんだな、と確認する。綾女は俺に視線を向けた。
「雄一、選んでいいよ。わたしは雄一を危険な目に合わせたくないから、家で待っていて欲しい。でも、雄一は……」
「俺は綾女を助けたい。今回に限って言えば、里帆を連れ出せるのは俺しかいない、と思ってる」
川上がこちらを向いて、真剣な表情で見た。
「後悔するぞ、いいんだな」
「この先、後悔したとしても、綾女を助けないで後悔するよりましだ」
「分かった。じゃあ、日時、待ち合わせ場所の確認をするぞ」
川上は地図を広げた。東京の主要都市が書かれた全体図だった。
「撮影が行われるのは秋葉原の雑居ビルの4階だ。聖人や仲間たちも同席すると聞いている。まあ、レイプ好きな聖人だ。自分の言うことを聞いた女が落ちて行く最後の姿を見たいのだろう。乱行されれば後は里帆の人生は落ちるしかない。助けるとすればここが最後だ」
「趣味悪いよなあ、自分を好きになってくれた女をレイプさせて喜ぶなんてよ、マジ最低なやつだよ」
圭一は女性に関しては一途だったはず。理解できないと腹を立てていた。
「聖人は人間のクズだ。若い頃から父親に英才教育を施されてるからな。見た目がかっこいいからか、ついてくる女は後を立たない。そしてその殆どの女は、この未来を辿ってる」
「最低、女として許せない!」
綾女の瞳が少し吊り上がり怒りを露わにしている。唇が噛み締められた。
「綾女、あまり個人的な感情を出すな。失敗するぞ。それはそうと日時だ。撮影は月曜日の17時からだ」
「雄一、授業と被るかもしれないけども今回は優先してね」
ごめんね、と手を合わせて言ってくる。最後の授業は休まないとならないが、ほぼ出ているので問題ない。ノートは後で借りればいいと思った。
川上は、入口の確認と4階までなるべく気づかれないように近づくために階段を使おうと伝えた。
「あ、それと土曜日の撮影だけどね。日比谷公園に集まるから10時に来てね」
綾女は俺に視線を向けて、恥ずかしそうに告げる。川上はまあ、そう言うことだ、とだけ伝えて来た。金曜日は撮影の打ち合わせで1日会えないらしい。俺は明日1日は悶々とした日々を送りそうだと思った。
――――
次のお話は、撮影会でしょうか。
ハラハラしますよね。
日比谷公園で集まるのでしょうか?
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