第33話 里帆を助けたい

 火曜から木曜は大学に通って、綾女の弁当を食べ、一緒に帰る。普通の日常を送っていた。キスもしなかった。綾女も愛に気をつかって積極的には、せまって来なかった。木曜日の帰り道、俺は思い切って気になっていたことを聞いた。


「里帆のこと、分かった?」


 数日ぶりの話題だった。気にはなっていたが、綾女の足を引っ張りたくはなかったから、我慢をしていた。黒と白のチェック柄の服を着た綾女が、こっちを振り返る。黒のミニスカートが少し揺れた。


「わたしの事務所の仲間や親しい人にも声をかけたけども、知らなかったよ。有名なところは全部当たったから、恐らくインディーズで出すのかも知れない」


「どこが違うんだ」


「この世界でインディーズと言うのは、修正が薄かったり、過激なものを指すことが多いよ」


「特定するのは、無理かな」


 横を歩く綾女は、時折考えながらも、難しそうな顔をしていた。


「本人に聞いてみるのがいいけども、難しいよね。やはり……」


「会えないんだよ。家に何度か行ったけれども、会いたくないと言ってるらしい」


 俺は色々考えた末、もう待つことはできないと感じていた。


「両親に言うしかないか」


「いやらしい映像で脅されてるのかもしれない。その場合、親が絡むと最悪の結果を招くこともあるよ」


 最悪の結果、それだけは避けたい。両親などにバレてしまうと、恥ずかしい写真などが公になって、自殺することもありうる。親が理解者ならいいが、言い争うことが目に見えていた。それだけは避けないとならない。


「何か方法がないのか」


「今、仲間たちに調べさせてるから、撮影場所、日程と時間が分かれば、みんなで乗りこもうと言ってるんだ」


「大丈夫なのか」


「君の幼馴染の一大事なんだよ。絶対、助けなきゃ」


 綾女は自分のことのように思っているようだった。過去の自分と重ねているような。綾女は単体女優だったから、扱いは悪くはなかったはずだ。企画となれば余計に酷くなる。分かっているから、こそ止めないとならないと瞳が語っていた。


「家で待とう。絶対見つけてくれる。インディーズと言ったってどこかで繋がってる」


「乗り込んで大丈夫かな?」


「雄一は、気にしないでいいよ。どうせあいつらとは一戦やらないとならないからね」


「じゃあ、綾女、俺の部屋で待とうか」


 綾女を家に誘うのは愛に対して引け目を感じるが、一緒にいたかった。今、手を離したら会えなくなるんじゃないかと怖かったのだ。


「いいの? 愛ちゃん悲しむよ」


「でも、一緒にいたい」


「わたし、何もしないよ。今はしたくない。それでいいかな」


「それって……」


 俺は綾女の言葉を聞いて驚くと共に嬉しかった。


「わたしも、あなたの価値観に近づいてきてるんだ。こんな汚れた女だけど、雄一は妹のことが解決しないと抱きたくないと分かる」


「ありがとう、それと綾女は汚れた女じゃないよ」


「わたしを汚れた女じゃないって言ってくれてありがとう。それとね。こんなに好きなのに我慢するなんて、今までならあり得ない話だよ。本当にね。でも、わたしは雄一のその気持ち大切にしたい」


 部屋に入ると綾女を椅子に座らせて、俺はベッドに座った。あまり距離が近いと俺が限界を迎えそうだ。押し倒されても全くおかしくない場所に綾女はいるのだ。


「土曜日さ、やはり寝るんだよな」


「気になる?」


「そりゃそうだろ、彼女が知らない男に……」


「仕方ないよ。それが今のわたしの仕事だからね。ごめん」


「謝られると辛いよ」


「じゃあ、どうすればいい?」


「綾女を抱きしめたい。変な意味じゃなくて……」


「いいよ、でも、大丈夫?」


「何が?」


「男の子だからね。その、我慢できなくなっちゃうかも。わたしも本心はね……」  


「大丈夫だと思う、多分だけどね」


 綾女はそこまで聞くと、椅子から立ち上がり、ベッドに座る。今、綾女は隣にいた。横を向くと、ショートカットの髪がふわりと匂いを運ぶ。俺の手が、冷たい感覚を捉えた。ビクッと身体が条件反射で震える。綾女の手が上から被せられたのだ。たいしたことでないことも、こんなにも感じてしまう。


「目を閉じて」


「いいの」


「うん」


 俺はゆっくりと軽く唇を重ねた。温かさが身体中に充満してくる。心のぽっかり空いた穴が塞がれたような安心感が心を支配した。性衝動とは違う不思議な安心感だった。


 唇をゆっくりと離すと、綾女の笑顔が間近に見えた。瞳が潤んで、嬉しそうな表情をしていた。


「こんなに嬉しいなんて、わたし初めてだよ。雄一、大好き」


「俺も綾女のこと、大好きだ」


 そのまま、俺は綾女の身体を抱いた。胸に顔を埋める。柔らかさと綾女の匂いに包まれた。


「もうっ、それわたしがしたいんだよ」


 文句を言いながらも、俺の髪の毛を撫でてくれた。


「雄一の髪の毛さらさらとして気持ちいい。君はね、自分が思ってるよりもずっとイケメンなんだよ」


 綾女は俺の顔を自分で抱くようにして、ベッドに横になった。いや、流石にこのままじゃ、本末転倒になってしまう。


「大丈夫、全てわかってるよ、だからね。今日はここまでだね」


 嬉しそうに俺の頬に唇を近づけてキスをした。綾女は起き上がって、スマホを見る。


「あれ、ライン来てる」


 俺は横からチラッと見た。そこには……。


(綾女、撮影日程、時間と場所がわかった。撮影会社はインディーズで悪い意味で有名な会社だ。ヤクザとの繋がりも強い。この山は結構やばいぜ)


 綾女は、スマホを慌てて隠した。


「もう、こんな時に広告なんか送ってくるなって、雄一も思うよね。それとね、今日用事あったよ。雄一ごめん、今日は帰るね」


 綾女は俺の部屋から出て行こうとした。俺は慌ててその手を掴む


「嘘つくなよ。バレバレだよ。お前ひとり行かせるかよ。俺も行くに決まってるだろ!」


「ちょっと、ゆういち……!」



――――


雄一くん、男見せました。

これからどーなるのかわかりませんね


今後ともよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る