第32話 愛の本気、綾女の気持ち

「おはよ」

「なぜ、お兄ちゃん迎えにくるんですか」

「だって、わたし彼女、だよ」

「でも、あなたはDVDに……」

「ごめんね、ちゃんと話せなくって。愛ちゃんを悩ませるつもりじゃなかったのよ」


「わたし、決めましたから、あなたにお兄ちゃんを渡しません」

「一緒に登校したらダメ?」


「それはその、わたしのライバル宣言ですから、綾女さんが登校するのは邪魔しませんから、いいですよ」

「ありがとう。やっぱり愛ちゃんいい子だよ」

「わたし、ライバルなんです。子供じゃないんですよ。なでなでしてくれても、その、それはいや、じゃないですけども」


 朝、一階で話し合ってる声がして俺は飛び起きた。愛も昨日よりも打ち解けているようで、ふたりの関係は多少改善したように見える。愛のライバル宣言の方が驚いた。降りていくの辛いな、実妹なんだぞ。愛が階段を駆け上がってくる音が聞こえた。聞いてないふりをするために、慌てて布団に入り寝たふりをする。


「お兄ちゃん、綾女さん来てますけどどうしますか?」


 俺はゆっくりと起きるふりをする。


「ありがとう、起きるよ」


「別にあの人と一緒に行かなくてもいいんですよ。なんなら、わたしと一緒に行ってもいいんだから」


 いや、だからおまえは実の妹なんだよ。いや、今の宣言聞いた後だから余計に嫌な予感しかしないんだが。


「愛、ありがとな。俺は綾女と登校するよ」


 目の前の愛を見ると悲しそうな表情が見えた。すぐに笑顔に変わり唇に力が入るのを感じる。


「お兄ちゃん、日曜日空いてるかな。もしよろしければ、行きたいところあるんだけども」


 俺はこの表情はやばいと感じた。これ行ったら、きっと実妹と許さざる間違いを犯してしまいそうだ。


「いや、その俺たち兄妹だからさ」


「じゃあ、川上さんと一緒に行こうかな?」


「それはダメだよ」


「じゃあ、お兄ちゃんが行ってくれるんですね」


「考えとく」


「うん、よろしくね、お兄ちゃん」


 愛はそれだけ言うと部屋を出ていった。俺は服を着替えて鞄を持って出た。


「おまたせ」


 目の前に綾女が立っている。やはり可愛い。今日の服装は、青のワンピースの下に薄い青のブラウスを着ていた。春のイメージにぴったりだ。


「おはよ、愛ちゃん何か言ってた?」


「日曜日空いてるか? って聞かれた」


「ふーん、でどう答えたの」


「俺が断ろうとしたら、川上と行くと言うからつい、考えとくって言った」


「えー? それはないよ。断るのならすぐに断ってあげないと期待するよ、それ」


「断るのかな」


「兄妹の一線越えるの?」


「いや、それはないと思う。実の妹だし」


「でも、愛ちゃんそう思ってないよね。きっと越えようとしてくるよ、いいの」


「断った方がいいかな」


「断らなくていいよ。わたしも参加するから、ならいいよね」


 嬉しそうに綾女が笑った。


「日曜日空いてるの? てっきり土日でその撮影すると思ってたから」


「今回は土曜日だけ、だよ」


「そっか。じゃあ一緒に過ごせるね」


「妹さんの誤解じゃないけど、少しは話し合わないとね、その彼女なんだし」


 綾女は俺をじっと見た。瞳を閉じる。えっ、ここでするの。リップが薄く塗られた艶やかな唇が目の前にあった。俺は綾女の唇に俺の唇を……。


「あっお兄ちゃん、忘れ物よ」


「うわっ……」


「どうしたの?」


 後ろ姿しか見えなかったのだろう。愛からはちょうど死角になって話しているように見えたのかも知れない。目の前の綾女は慌てたのか後ろ向きになり手をもじもじさせていた。お預けを食らった感じが強く出ていて可愛かった。


「はい、お弁当」


「いや、お昼は……、弁当いいって」


「綾女さんが作るから?」


「いや、その、まあ……」


「これは朝ごはんだよ。どーせ食べないと思ったから。それとね、朝からお盛んなのは良いけど、キスするならもうちょっと周り見た方がいいよ」


 愛はそれだけ言うと家に入っていった。


「えと、その続きする?」


「しない、見られてるんじゃできないよ」


「そうだな、じゃあ行こうか」


「うん!」


 綾女が手を組んでくる。自然と腕が組まれると胸が押しつけられる。豊満な胸は隠しようがなく、腕を組んだ時点で柔らかさと戦うことになるのだ。


 俺たちは大学に向かった。周りからは、色んな視線が俺を見てくる。年配の人からは初々しいな、と言う視線。同年の男子からは、敵視した視線だ。ここまで視線を集めることは里帆ではなかった。


「綾女は人の視線とか気にならないか」


「うん、意識しても仕方ないし。雄一は気になる?」


「そうだね。綾女と一緒に登校することも少なかったし」


 腕を組んで今まで登校とかしたことがないので、新鮮に感じた。綾女は彼女であることを重視してくれてるのだ。


 目の前に大学の正門が見えてきた。


「聖人だよ。なぜ、あそこに立っているの?」


「わからないよ。無視して通り過ぎよう」


 腕に力が入るのに気づいた。うわ、やわらかい。視線を綾女に移すと緊張した面持ちでいた。


「大丈夫だよ。絶対綾女を渡したりなんかしない」


「うん、わたしも雄一しか見ない」


 俺は聖人の横を通り過ぎようとした。


「おはよー、そうだ。幼馴染だったから言っておかないとと思ってな」


 幼馴染という言葉に俺は聖人を見た。唇が歪んで俺を睨みつけていた。


「里帆ちゃんさー、DVD出演が決まったらしいよ。企画だけどね」


「ちょっと待てよ。何を言ってるんだよ」


「君は里帆ちゃんの彼氏じゃないよね。それともそこの綾女渡すんなら、この話考えてもいいけどね」


 守ろうと思っても守れない。どうすればいいんだよ。


「誘いに乗っちゃダメだよ。ここは冷静に話そうね」


「里帆は嫌がってるだろ」


「どうだろう。綾女より上を目指すと意気込んでたと思うけどね」


「撮影はいつ、どこで行われるんだ」


「それは教えられないねえ。もっとも綾女とやらしてくれるなら、考えてもいいけども」


「綾女、行こう」


「ごめんね、雄一」


 俺は綾女と一緒に聖人の横を通り過ぎた。


「企画の内容なんだっけ。確か大乱行ものだったかなぁ」


「ごめん、ごめんね」


 隣の綾女の方を見ると、瞳が潤んで溢れ出し、一筋の雫が落ちた。俺は掴んだ手に力を入れた。



――――


大変なことになってきました。

まさかです。


今後ともよろしくお願いします。

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