第29話 愛つづき

「なんだお前? この子の彼氏か? 違うんだったら、放っておけよ。俺たちはこの娘に用があるんだ。お前は関係ねえだろうが……」


 明らかに嫌悪感むき出しの顔で、金髪の男たちは、つけて来たイケメンを睨んだ。


「彼女のボディガードなんでね。これ以上、近寄るようなら、痛い目見るよ」


「はあっ、お前、目ついてんのか? 俺たち三人いるんだよ、ちゃんと見てる。そのかっこいい顔をボロボロにしてやろうか」


 3人の嘲笑うような笑い声が続いた。何故か男はわたしを助けようとしてくれているらしい。ただ、かなり分が悪かった。隣の優男は、顔はいいが全く強そうには見えない。わたしも逃げるのは得意だが、喧嘩なんてやったことはない。


 可能性を考えたら1人よりも2人。わたしも戦わないと、と思った。わたし、負けたらどうなるんだろ。一瞬、綾女の出ていたDVDが頭をよぎった。


 犯されて感じてる映像だ。無理やり犯されてよがってた。あり得ない。もしそうなったら死ぬしかない。汚されて感じるなんて、そんなの娼婦だ。お兄ちゃんに顔向けできない。そうなったら舌を噛んで死のう。わたしは緊張の面持ちで隣の男を見た。余裕そうな笑みさえ浮かべていた。


「雑魚が何人いても雑魚は雑魚だ。消え失せろ」


「ふざけるなよ」


 明らかに怒った男はイケメンに殴りかかってきた。一撃でやられちゃうよ。やめて……。当たると思った瞬間、拳は目の前で止まった。いつのまにか眼鏡の男が腕を握っていた。そのまま宙を舞い、後ろに落下して叩きつけられた。


 凄い、ありえなかった。この優男見た目とは違い強すぎる。ふたりの仲間の一人が刃物を出して近づく。刃物なんて初めて見た。あり得ない……、殺される。


「危ない!」


 刃物が当たる数センチ。男の手の方が早かった。殺す勢いで突進して来たナイフを持った男は、そのまま空中に何メートルか吹っ飛び地面に叩きつけられる。なに、この男。イケメンな上に恐ろしく強い。王子様? 一瞬、少女漫画の映像が浮かんでかき消した。何考えてるのよ。


「キミも俺の相手してくれるのかい?」


 最後に残った男は、悪役がよく言う台詞を言い放つ。


「覚えてろよ!」


 とてもそんな風には見えなかった。命からがら逃げていくと言う表情だ。ふたりを起こして逃げていく。カッコ悪い上に弱い。いや、そうじゃないイケメンが強すぎるのだ。


「怪我はなかった?」


 イケメンの男はわたしの方を向いてニッコリと笑う。多分、100人の女の子がいたら99人までが、そのままホテルに行ってもいいと思うくらいかっこよかった。


「なんで、助けたのよ」


 もちろん、わたしはそこには含まれない。ブラコンと言われようとも、実妹と言われようとも、お兄ちゃん一筋なのだ。事実婚で構わない。結婚したいのだ。目の前の優男なんかに興味はない。


「なぜ、俺は睨まれるんだ? まあ、いいけど。俺はキミのお兄さんにボディガードを頼まれただけなんだけどね」


「なぜ、お兄ちゃんが、あなたをボディガードに?」

 

「正確にはそうだな。綾女が君のお兄さんと付き合うと君は襲われる可能性が高まるんだ。まあ、さっきの男は事故みたいなものだけどね。俺が助けなければならない敵とは違う」


 綾女と聞いて、頭に血が上ってくる。お兄ちゃんは本気であの淫乱な女と付き合おうとしてるの。正気なの。真面目にあり得ないのですけれど。


「わたしは、あなたに助けてもらいたいとも思わないですし、あの女を兄の恋愛相手と認めたわけでもありません。お帰りください」


「ははは、連れないなあ。妬いてんのか?」


「なっ、なんで実兄の恋愛にわたしが嫉妬するんですか。あり得なくないですか?」


「でも、ありえるんだろ。その顔見たらどう見ても兄に恋をする少女の顔さ」


 ニッコリと微笑んで、わたしを見つめてくる。イケメンにしか許されない余裕の笑みだった。今、気づいたが、目の前の優男は左手薬指に指輪をしていた。


「結婚してるの?」


「面白い娘だ。俺は結婚してるよ。だから言ってるだろう、ボディガードだって」


 なんだ、これ。ちょっとがっかりしてる自分がいた。兄が好きと言いながら、目の前の男をちょっといいな、とでも思っていたのだろうか。自分も99人の女の子のひとりだったと気づいて、顔が赤くなった。あり得ないんですけども。


「まあ、俺はキミが綾女をどう見ていてもいいんだけども。ただ、今のキミの状況は非常に危ない。だから、登下校時は守らせて欲しい。ちなみに俺は川上啓介な。結婚してる関係なく、俺にとってキミは子供のようなもんだ。子供に魅力は感じてないから安心していいよ」


 川上という男は壁ドンをしそうな距離まで近づいてニッコリと笑みを浮かべながら言った。


「なんか腹立ちます」


「僕に恋をしてくれてたのかな。ごめんね」


「わたしは、あなたなんかに恋なんかしてませんよ。兄一筋ですし、そりゃちょっとカッコいいとは思いましたけどね」


「お兄ちゃんか、禁断の恋って感じがしてすごくいいね。応援するよ?」


「でも、あなたは綾女さんの友達ですよね?」


「だからって応援したらダメとは言わないだろう。綾女のことも理解してほしいけど、それよりもキミが綾女の恋敵になるなら、僕は応援するって言ってるんだよ」


「実妹だけれども……」


「いいじゃん、事実婚。俺は好きだな。その禁断ぽいところが、きっと面白そうだ」


 味方なんか敵なのか。綾女と仲が良さそうだが、その価値観が不思議でよくわからない男だった。悪い人には見えなさそうだけれども。


「行くよ、ボディガード、……してくれるんだよね」


「あぁ、隣歩いていいか? その方があんな奴らに声かけられずに済むだろうし」


「うん、あなたから聞きたいこと沢山あるから、いいよ」


 わたしは川上と隣あって歩きだした。鼓動が速くなるのに気づく。本当、女って馬鹿な生き物だ、と思った。


「綾女のDVDだけどな、彼女を責めないであげてくれよな」


 川上は悲しそうな表情でどこか遠くを見つめているようだった。




川上さん強いですね。

強くてイケメン。


ただ、彼女持ちなので、無理だよね


こんな感じです。

今日もありがとうございます。

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