第25話 試写会の後、そして

 5年ぶりの訪問は、裕二の母親を喜ばせた。夕食までご馳走になり、カレーを食べながら中学の思い出話に花を咲かせる。裕二との仲は全く変わることはなかったが、里帆との関係が変わったため、なんとなく遠ざかっていた。里帆が行かないなら、行かない方がいいと思ったのだ。


 3人の関係が大きく変わったのは、中学3年生の夏休み前のことだった。里帆は昼休みにクラスの女子達にいつも3人一緒にいるのね。もしかしてつき合ってるの、と冷やかされたのだ。


 クラスの男子が便乗して3人でエ○チしてるんだろ、と騒いだものだから、クラス中大騒ぎになった。否定しても、その声は止まず里帆は泣くしかなかった。


 俺は別のクラスだっため放課後に詳しい内容を知った。里帆を傷つけたことが許せなくて、はや し立てた男子に殴りかかった。傷痕を見た親から学校に連絡が入り、父親が呼び出された。


 父親は終始、親と先生の前で謝っていた。俺が言うことには全く耳を傾けようせずに30分以上謝罪が続き、俺まで土下座をさせられる。


 あんまりに腹が立ったので、帰り道に父親に文句を言ったら、力一杯何発も殴られた。救急車まで呼ばれる大怪我を負いその日入院することになった。


 本来であれば、警察沙汰になるのだろうが、俺は高いところから転げ落ちた、と言い張ったため、捕まらずにすんだのだ。あいつが家に帰らなくなったのはそれからだった。


 俺としては、下手に帰ってきて、妹を怯えさせてはならないから、正直帰らないことは大賛成なのだが。


 お見舞いに来た里帆は何度もごめんね、と言ってたな。お前が悪いんじゃねえだろ。何故、お前を傷つけたやつは謝罪に来ないんだよと言ったら、もういいよ。わたしには謝ってくれたからと笑っていた。里帆はその日から俺を異性として意識するようになったらしい。


 三人の仲良しから、明らかに里帆は俺に近づくようになった。たまに見せる色っぽい表情に裕二が気づかないわけがない。裕二は俺から距離を取るようになって、家にも誘わなくなった。


 今日、裕二の家に行けたのは、里穂と別れたことが大きいのだろう。付き合っていたら、ずっと来なかったかもしれない。


 里帆と俺との関係は、もうあの日に戻ることはないが、里帆が困っているのであれば助けてあげたいと思った。


 結局、お酒までご馳走になり、裕二の家を出たのは、夜11時を過ぎてからだった。ほろ酔い気分で歩きながら、何か忘れていたことに気づく。中途半端な形で飛び出して来た。妹は今でも俺の話したことを気にしてないだろうか。


 家に帰ると門が閉まっていた。いつも開けてるのにおかしいな、とその時思った。門を開けて、ゆっくりと庭に入る。妹の部屋を見ると窓から白い電灯の明かりが漏れていた。


 部屋にいるのだろう。玄関ドアに鍵を入れて開ける。音を立てないようにゆっくりと閉めた。さすがにもう気にはしてないか。


 俺は靴を脱いで二階に足音を響かせないように、細心の注意を払って上がった。やはり愛は自室にいるようだった。連絡もしなかったから、心配していたのではないか。夕食も食べなくて悪かったと思い、ゆっくりとドアを開けて自分の部屋に入った。


 照明のスイッチを押して、部屋の電灯をつける。ベッドに寝ようとして、何かあるのに気がついた。裕二の家で見たような気がする。


「なんだ、これは!」


 俺が手に持っているものは、綾女―優衣のDVDだった。さっき裕二の家で見てたものと恐らく同じ内容だ。愛がここに置いたのか。俺はあまりの驚きに心臓が爆発しそうになった。愛が俺のドアをそっと開けた。部屋に入らずに、俺をじっと冷たい目で見ている。


「お帰り、お兄ちゃん、これ何のDVDなのかな」


「どうして、これがここにある? 愛が買ったのか?」


「お兄ちゃん、わたしの質問に答えてないよね。これは何のDVDなの?」


「イメージDVDかな?」


 こんな時に何を言っても無駄だが、少しでも誤魔化せないか、と思った。


「もう一度聞くが、愛が買ったのか?」


「わたしは今日初めて知ったの。お姉ちゃんだよね。なぜ、お姉ちゃんが、こんないやらしいDVDに出てるの?」


「事情があるんだよ。それより愛はこれを誰に渡された?」


「里帆の彼氏。聖人と言ったかな。夕方に、インターフォンが鳴ったの。わたしは里帆ちゃんを奪ったあいつが大嫌いだから、無視してたの。そしたら、外から愛くんいるんだよね。これを見てくれないか。そして、雄一を助けてやってくれ、と玄関前に置いていったの。落とし入れるためにこんなDVDを作ったのかと思ったんだけれど、このクオリティは素人ではとても作れない……」


 最悪の事態だった。バレることはないと軽く考えていた。聖人を追い込んだ時も、契約書があるのなら、学校に話せないかくらいにしか考えていなかった。聖人がこんな手に出てくるとは思いもしなかったのだ。


「どんな事情かは、知らないけどね。男に抱かれてお金もらうなんて最低! お兄ちゃんはエ○チできて嬉しいかもしれないけども、汚らわしい。もう、あの人を絶対家には連れて来ないでよね」


 愛はそれだけ言うと、自室に入って扉を閉めた。部屋の中から愛の嗚咽 おえつが聞こえて来る。しゃくり上げるような声が何度も何度も繰り返された。好きだった人に騙されたと思ったのだろう。連れてきた俺を汚らわしいと思ったのだろう。俺はかける言葉も見つからず、ただその場で呆然と立ちつくしがなかった。


 大変なことになった、とその時思った。



――――



えらい事になりましたよ。


どーするのよ。


どう収集つけんのよ

作者視点w


とりあえず頑張ります。

読んでいただきありがとうございます。

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