第24話 試写会?

 俺は里帆が助けてくれたことを話した。里帆は弱みを握られているため、恐らく歯向かえない。助けたいが、証拠がないと現状を伝えた。綾女は少し考えて、証拠探さないとならないよね、と黒いボブカットを揺らして、俺の方を見た。


 一緒に行きたかったが、また今度ね、と手をあげて誤魔化される。行ってくるね、と言う声に手を振り返すことしか出来なかった。手がかりもないのに闇雲に歩いてはかえって足手まといになってしまう。一緒に行きたいが恐らく仲間の二人に助けを求めるだろう。彼らに比べてただの大学生の力なんて、本当に無力だ。


 家に帰ってベッドに横になった。時計をみれば3時を少し過ぎたところだった。里帆の一大事だから仕方がないが、恋人なのに恋人らしいことも何もできなかった。しかもだ……。


「まさか、綾女と知らない男のエ○チを見ないとならないなんて」


「お兄ちゃん何言ってるの!」


 隣の部屋から、愛が出てくる足音が聞こえた。今日は一日、予定もないと文句を言っていたっけ。綾女のことばかり考えていて完全に忘れていた。


「変な独り言が聞こえたんですけど」


 入っていいかと確認をすることもなく、扉を開けて部屋に入ってくる。相当怒っていた。綾女が好きな愛からすると今の言葉は綾女を脳内で犯している行為に見えたのかもしれない。実は、愛もと頭に浮かんだが、流石にこれはヤバい。


「どう言うことなの?」

「すまん、妄想が声に出てしまった」


 上手く誤魔化そうとしたが、見破られた。俺は愛の怒りに焦った。中途半端な答えをすると余計に火に油を注ぐことになる。だからと言って本当のこと言えるわけがない。


「そう言えば、10時に出て行ったと思ったら3時に帰ってきて、どうしたの。もしかして、お兄ちゃん綾女さんに振られた」


「振られてないよ。むしろ好かれてるよ」


 間違いなく本当のことだ。嘘を言っていないことが、愛にも分かったのか今の話を取りやめて、俺の言った言葉に集中して来た。先ほどの言い訳では信じてくれてないようだった。


「で、綾女と他の男のエ○チを見ないといけない、とはどう言うことなのよ」


 俺の頬から一筋の汗が流れた。目の前の愛は真剣な目で俺をみてくる。時計の時間を刻む音だけが室内を支配した。沈黙の時が流れる。言い訳をしてもきっと誤魔化せない。愛の真摯な視線がそう伝えているように思えた。


「ちょっと出かけてくるな」


 俺は愛の横をすり抜けてドアを開ける。隙をつかれたのか、一瞬遅れたため、俺は部屋から廊下に出られた。階段を慌てて駆け降りて、玄関を開ける。後ろから待ってよ、と慌てた妹の声がする。待つわけがない。


 土曜日までに綾女の裸に少しでも耐性をつけないと関係が終わってしまう。焦りを感じた俺は電車に乗り継いで、裕二の家まで行くことにした。


 裕二の家は調布の俺の家から5分歩いたところにあった。インターフォンを鳴らすと裕二の母親が出てきた。


「裕二、いますか?」


 中学生の時は、毎日のように通っていた。母親は珍しいねと笑いながら部屋に通される。あの時は里帆もいた。俺たちはいつも裕二の家で遊んでいた。


「よっ、裕二」


「お前が来るなんて珍しいな。綾女ちゃんとは別れたのか」


「今日、キスしたよ」


「はぁ、お前それを自慢しにきたのか、死にたいのか?」


「いや、そうじゃなくてだな。俺さ、綾女と付き合うのに、男優との絡みを見ないとならないらしい」


 裕二はそれを聞くと、テレビゲームをやめて、こっちを見た。興味の色が見てとれた。


「そう言うことか。まあ、綾女ちゃんが業界から足を洗わない限り、ずっと苦しみ続けるもんな」


「そういうもんか?」


「実際、別れることが多いらしいよ。耐えられないのよ」


「好きなのにか?」


「好きだからだろ。普通さ、好きな女が自分以外の男と関係持ったら別れるだろ」


「確かにそれは言えてる」


「それにさ、こう言ってはなんだけど、昔と違って、この業界入る人が多い分、可愛くても容赦ないのよ」


「容赦ないとはどういうことだよ」


 俺は唾を飲み込んだ。聞きたくないが、この質問は避けて通れない。


「例えば昔なら可愛ければイメージビデオに裸があれば許された時代があったのよ。挿入した振りっていうのもあった」


「いい時代だな。その時代……」


「まあ、固定電話の時代だよ。女性と繋がるのが難しい時代だから、それで許された。今はそうじゃないだろ。簡単に繋がれてしまう。誘惑も多くなったから、この世界に堕ちる子も増えたのよ。競争率が高い分可愛くても、エ○くないと売れないのよ」


 確かに今の時代は誘惑が多い時代だよな、とは思う。個人でスマホを持っているから、若い世代でも興味本位で、如何わしいサイトに簡単にアクセスできてしまう。可愛くないとなれないと書かれた提灯広告もある。


「お前、綾女ちゃんのDVD見るか?」


 裕二は俺をじっと睨んだ。確かに避けては通れない道だとは思った。思ったのは事実だが、向き合えない自分もいた。


「それは流石に、なあ」


「何言ってんだよ。目の前で見せられるよりまだマシだぜ」


 裕二は、すぐにDVDをテレビに差し込んだ。メーカー名が表示され、映像に変わる。


「これはデビュー当初だから、そんなにエ○くないと思うんだよね」


 最初は男優に質問を受けているシーンだった。綺麗な白い屋根の家で、質問を受けていた。名前、年齢、好きなこと、一般的な話題から始まった。一つ一つの質問に綾女はしっかりと答えていった。AVだから当たり前だが、話が男性経験の話に触れた。


「てっきり、男の経験とか凄い人数言うのだと思った」


「昔はそんな娘が多かったけど、今は普通だぜ。経験ない娘も結構いるんだよ」


「綾女のひとりって言うのは……」


「詳しくは知らないんだけどさ。噂ではどっかの芸能事務所の偉い人らしいよ」


 知った顔が浮かんだ。あいつの父親か。聞くこともないが、頭の中では恐らく間違いないと感じた。どこに間違いがあって、この世界に飛び込むことになったのだろう。

  

 シーンが変わり草むらのシーンになった。綾女は薄い白いワンピースを着て走っていた。以前見たイメージDVDに近い気がした。可愛らしさを強調したような撮影だった。


「こんなもんなのか」


「あー、こう言うシーン殆どの人は見ないと思う。俺みたいにファンならむしろこう言うシーンが好きだけどな」


 また、シーンが変わった。教室のような空間に男優とふたり話していた。男優が綾女の前に立つ。会話というよりも、これは言葉責めだ。聞きたくない卑猥な言葉を使って綾女を責めていた。視聴者を意識して、恥ずかしい質問をしてるのだ。ここが感じるのかな。そのうち手が下腹部をまさぐり出す。


「今日は、ここまでにしとこうぜ」


 俺は慌ててDVDを止めた。


「お前さ、そんなんでどうするんだよ」


「流石に、ここからはキツイ」


「お前、大丈夫なんかよ」


「分からないよ。でも、守るって言ったから」


「まあ、見る、見ないは雄一次第だし、ここまででもいいけどもさ。綾女ちゃんはそういう世界で生きてる。彼女だって望んでないだろ。だって元アイドルだよ。誰が悲しくて男に触られて、エ○チなこと言われて、望まない関係されて、しかも感じているフリしないとならないんだよ。理由はわからないけど、仕事だからしてるんだよ」


「分かってるよ。綾女が経験してるのに比べれば、俺が見るのなんて大したことないってことはな」


「じゃあ、もっと立ち向かえよ。それで無理なら、抱くしかないだろ」


「辛いよ。好きになれば前より、ずっと辛くなる」


「だから、綾女ちゃんは今まで好きと言えなかったんだろうよ。お前が引いたら、綾女ちゃんも好きと言ったことも嘘ということにして、別れると思うぞ」


「そうかも知れない。綾女は助けられて、咄嗟に好きになってくれたのだとすれば、その逆もありうるよな」


「そうならないために、しっかりしろよな」


 俺が変わらないと付き合うことはできないのだろうか。本当はやめて欲しかったが、そう言えない事情が存在しているのはなんとなく分かった。


――――――


 なかなか辛い立場の主人公です。


 今後ともよろしくお願いします。

 主人公がカッコよくないとか言われるのは、今のところ仕方ないかも。

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