第23話 聖人とのデート、そして

 魔の日曜日が来てしまった。昨日の綾女の言葉が輪をかけて心に痛みをもたらす。もう止めることはできないのか。綾女は聖人に抱かれる。分かっていたことだった。俺の何気ない一言から始まった復讐劇がこんな形になるなんて。


 綾女は本日モール前10時に聖人と待ち合わせをしている。どんな結末になっても最後まで見届けようと俺は現地に行こうと思った。気になって、いても立ってもいられなかったのだ。


 家を出て駅に向かうため、門を出ると里帆の姿があった。いつになく追いつめられた表情だった。


「里帆、大丈夫か。顔色が優れないけれど」

 青ざめていたので気になった。


「聖人はやばいよ。綾女さん今日デートに行くんだよね。止められないかな」


「どうしたんだ、そんなに慌てて」


「聖人は、綾女さん、自分に好意がないことを知ってるのよ。きっと、無茶苦茶にされるよ。だから、お願い。わたしに言う資格はないのはわかってる。でも、これだけは言わないとならない。綾女さんを助けてあげて」


「なぜ、綾女の聖人への想いが演技だと知ったんだ?」


 俺は焦りと共にその言葉にかけてみたいと思った。それが本当なら止められるかも知れない。


「偶然、電話で話してるのが聞こえたの、慌てて録音した。これだよ」


 里帆は自分のスマホを出してくる。このスマホは、ペアで買おうね、と一緒に買ったスマホだ。まだ持ってたんだ。里帆は再生を押した。


「あーそうだ、俺だよ。明日の計画分かってるな。綾女―そっちの世界では優衣か。馬鹿にしやがって、あいつが考えてる復讐。こっちは分かってんのによ。うん、そうだ。出来るだけ男を集めろ。あれも用意できるよな。あいつ、無茶苦茶にして、もう完全に俺しか見えないくらい堕としてやるぜ」


 確かに聖人の声だ。しかも優衣とは、あいつはどこまで知ってるんだ。


「このデータ送ってもらえるかな」


「うん、そのつもりだった」


 里帆はデータをLINEで送信してくれた。音声データ送信中に気になった。


「お前、こんなことして大丈夫なのか?」


「わからない。綾女さんの好きと言うのが演技なのも昨日知った。ただ、演技で抱かれようと思ったのかは、聖人見てたら分かる。わたしは自ら抱かれたのだから自業自得だよ。でも、これはあまりにも酷いでしょ。私がどーなるかは分からないけども。罪滅ぼしはさせて」


「ありがとう。里帆は聖人と別れないのか」


 俺は聖人のことを知った今の里帆なら、もう一度幼馴染に戻れると思った。


「ごめんね、気持ちは分かる。今は無理かな、理由を説明することはできないんだ」

 

 脅されている雰囲気を強く感じた。知る必要があるとは思うが、今は綾女のことが先だ。


「じゃあ行ってくるよ」


「うん、頑張って」


 俺は焦った。はっきりとは言わなかったが薬物を使ってでも綾女を落とそうとしているのが話から分かった。今、綾女はバレていないと思っている。しかも優衣という言葉が気になった。どこまで知ってるのか。俺は走った。間に合ってくれ。


 さっきの里帆との話をLINEに送ったが既読がつかない。恐らく俺が止めると思ってスマホを見ないのだろう。何度か電話をしてみたが、電話にも出なかった。直接会って止めるしかない。走ってモール前に10時ちょうどに着いた。綾女を探すがどこにもいない。


 綾女は時間よりいつも30分程度早くくることを思い出した。今、極めて大変な状況になっていることに気づく。綾女がどこにいるのか分からないのだ。


 モールの中か、それとも外か、繁華街を歩かれたら探すことは不可能だ。俺は一つの可能性に賭けた。里帆ならわかるかもしれない。


「もしもし、里帆ごめん。綾女を見失った」


「わたしも今日どこに行くか分からない。ただひとつだけ必ず行くところがあるの」


「そこを教えてくれ」


「ラブホテルよ。モールの裏手、繁華街の先に聖人が必ず女を連れていくホテルがある。きっと今日もそこに行くはず。だからそこで待ち伏せして」


「ありがとう」


 俺は里帆の言った言葉を手掛かりにラブホテルを探した。繁華街の裏手あまり行かないところにそのホテルはあった。


 ホテルAPETOROと書かれたホテル。外からはビジネスホテル風でとてもラブホテルとは思えない。俺はそのホテルの影に隠れてふたりが来るのを待った。


 どんな理由であれ、綾女を止められるのは嬉しかった。これで計画は大きく変更を余儀なくされるかもしれない。それでも抱かれて欲しくない。俺はふたりが現れるのを待った。時間だけが過ぎていく。本当にここであってるのだろうか。もしかしたら、別の場所に変えたのかも。不安で潰されそうになる。でもここしかあてがない。


 ちょうど3時間後、綾女と聖人がホテル前にやってきた。綾女は赤い服にミニスカート、かなり色気のある服装でスカート丈がかなり短かった。聖人に寄りかかるようにやってくる。今しかない……。


「ちょっと待って!」


 綾女の表情が苦悶に歪んだ。かなりの動揺が見えた。


「雄一くん、どうしてここへ、きみ関係ないよね」


 綾女が強い口調で言い放つ。ここまで厳しく言われたのは初めてだった。この状況では俺は綾女の計画を潰そうとしてると思われてもしかたがない。


「雄一、お前バカか。里帆を取られたと思ったら、今度は綾女でも同じことをするのか」


「わたしは里帆ちゃんが彼女なのは知ってるよ。そんな話聞いてもわたしの気持ちは変わらないわよ」


 威勢はいいが、綾女は明らかに俺の存在が足枷となっていることがわかる。瞳が動揺で揺れていた。


「もう放っとけ、綾女入るぞ」


「ちょっと待って、ちゃんと話しはしないと」


「そんな必要なんてないんだ。綾女は俺の女だろ」


 明らかに聖人は焦っている。綾女が俺に惹かれていることを知ってるのだから当たり前だ。


「綾女、行くぞ」


 聖人が綾女の身体を後ろから抱き、無理やりホテルに連れ込もうとする。


「聖人、綾女が演技してるってお前知っててホテルに誘ったよな」


「何を言う!」


「えっ、演技って……違うよ。わたし本当に聖人のことが好きで」


「綾女、もういいんだよ。聖人は全部知ってるんだ。それを利用して連れ込むつもりなんだよ」


「お前、適当なこと言うな!」


「適当じゃない、これが証拠だよ」


 俺は里帆からもらった音声データを流した。明らかに綾女が動揺している。


「あれ、優衣って、雄一これって……」


「綾女、こっちへ来い。俺がお前を守ってやる! 今まで何も言えなくて、ごめん。お前が何だろうと関係ない。だから……こっちに来てくれ」


 綾女は聖人の方を向き、強く腕を振り解いた。


「綾女、これは作りものだ。誰かが俺たちを別れさせようとしてるんだよ」


「そんな嘘、誰が信じるのよ」


 綾女は走って俺のところに来て抱きついた。


「優衣、いいのか。女優のこと学校にバラしてもいいんだぞ。そうなりたくなかったら、こっちに来い」


「聖人、あなた最低ね。まさかあの男が息子に言うとはね。でも学校には言えないはず。母と交わした契約書があるの知ってるよね」


「あのクソ親父め。何故あんな契約書があるんだよ」


「もし、破って学校に言ったら、さすがにあなたでもやばいよね」


「うるせえよ……ちなみにこの音声データ、警察に持ち込んでも無理だからな。証拠がねえからな。それにしても里帆余計なことしやがって……」


 契約書のことは分からないが、聖人は学校に言えない事情があることが分かる。里帆に対しての憤りから、目の前の看板を思い切り蹴り上げた。


「雄一、逃げよう。まさか追って来るとは思えないけどね」


 俺たちは走った。気がついたらモール前に来ていた。息が乱れて苦しい。綾女も息を切らしていたけど、ゆっくりと話し出した。


「雄一、本当にわたし馬鹿だ。あの男にまんまと騙されて、薬物使われて数人で意識もないくらいに犯されるところだった」


 綾女は動揺して震えていた。俺は綾女の肩を抱いた。ゆっくりと唇に近づいてそっとキスをする。


「雄一、いいの。こんな汚れたわたしで」


「綾女がいい。俺お前のことが好きだから」


「ありがとう、雄一私も大好き。きっとあなたが思ってるよりもずっと……」


 言ってから、真剣な表情になる。


「それにしても、これで振り出しか。聖人が捕まれば父親への復讐の第一歩としてはいいと思ったのだけれどね」


 一息ついて俺に抱きつく。綾女のいい匂いが鼻口をくすぐった。


「あとさ、雄一」


「なんだキスしたの、ダメだったか」


「違うの、雄一好きって言ってくれたよね。守ってくれるって。なら、どうしても行ってもらわないとならないところがあるんだ」


「どこに?」


「来週土曜日、10時から新宿の事務所で撮影がある。雄一も一緒について来て欲しいの。意味わかるよね」


 俺は唾を飲み込んだ。今のところ映像ですら綾女の動画は見たことがないのに、撮影に同行するとなると、当然綾女が汚されるところを見るのか。


「雄一ごめんね、ここはわたしの彼氏になるには避けられないの」


――――


読んでいただきありがとうございます。


とりあえず付き合うところまでですね


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