第22話 ふたりとモールで

「お姉ちゃん、どの服選ぼうか!」

「ちょっと、愛ちゃん。今日は雄一の服選びがメインだよ!」


 モール前ではしゃぐ愛に綾女が注意する。


「愛も選んで良いよ。一着くらいならお兄ちゃん買ってあげるぞ!」


 愛は赤のレースのニットシャツに黒のミニスカートだ。綾女はベージュのチェックのブラウスに黒のミニスカートを合わせていた。


 ふたりとも本当の姉妹のように可愛い。道ゆく人が振り返るがどんな風に見られてるんだろうか。


「えー、ずっるーい。わたしも雄一くんに買ってもらいたいなあ」


 目の前を後ろ手に組んで歩く綾女が口を窄めてこっちを振り返った。


「じゃあ、綾女のも買うよ」


「あっ、嘘だよ。冗談、わたしはいいよ。服は結構あるし」


「いいよいいよ、ついでだよ」


 出会ってからプレゼントなどはしたことがないのでいいと思った。


「こっちだよー」


 妹は前からチェックしてたのだろう。女性服の専門店に連れて行かれる。値段も高くない。兄の懐事情をよくわかっておられる。


「可愛い、これ確かに愛ちゃんに似合ってるよ」


 俺が愛の服を買っていると隣にいた綾女が呟くように言った。


「わたしは、本当にいいよ」


 綾女は、周りを見渡した。


「あっ、かわい……、なんでもないよ」


 一瞬、飾られている可愛い服に目がいった。確かに可愛い。この服でデートしてくれたら、いいなあ、と思える可愛いピンクのワンピースだった。綾女が途中会話が止まった理由は、その値段。3万くらいしていた。


 今日は奮発してお金を下ろしてきたので、なんとか買えそう。女の子が躊躇してる服は買うべきなのだ。俺は綾女と付き合いたい。このくらいで思いとどまっていたら、彼氏になんかなれない。


「それ、可愛いね。買おうか」

「いや、いいよいいよ。これはね」


 俺はその服を取って、店員に試着したいと声をかけた。


「本当にごめん」


 申し訳なさそうな顔をしている綾女がいた。試着から出てきた綾女は本当に可愛かった。


「お姉ちゃん、それ絶対いけてる。ケチなお兄ちゃんが出すと言ってるんだから買おうよ」


「本当にありがとう」


 泣きそうな表情で、それを店員に渡した。


「ごめんね、なんか悪くて……」


「じゃあ、お兄ちゃんの服を選びに行こう!」


 愛は楽しそうに歩いていくが、正直言うと、少し足り苦しかった。


「俺は良いよ、折角きたけどね。俺はいつもの格好が似合うんだよな」


「雄一くん、わたしに買わせてよ。わたしだってプレゼントあげてない」


 真剣な表情で俺を見てくる。その申し出は非常にありがたいけども、悪いと思った。


「本当にいいよ。大丈夫だからさ」


「気にしないで、前も言ったけどもお金はあるから……」


 当たり前だろう。彼女は人気アダルト女優だ。彼女を1時間拘束するだけで三万。DVDなどが相当なお金を叩き出しているのは容易に想像がついた。


 結局、俺は綾女に三着も買ってもらった。これじゃあ紐じゃねえか。


「ごめん」


 兄妹揃って俺は綾女に謝る。


「気にしないで、わたしが買ってあげたかったんだよ。それよりお腹空かない」


「空いたよ」


「店のお金は俺が……」


「だから大丈夫。今日はお姉さんに任せなさい」


「お姉ちゃん凄い。金持ち」


 チラッと見た財布には20万くらい見えた。流石に財布にそれだけ入れると言うことは相当なお金があるのが予想できた。


「そうだねえ、今日はたくさん下ろしたから」


 その表情には、違うと思わせた。恐らく普段から持っているのだろう。金銭感覚は大丈夫だろうかと少し心配になった。


 俺たちはモール最上階のステーキ店でご飯を食べることになった。かなり本格的な店で火を通した時に火がフライパンの上で燃え上がる。それを売りにしていた。


 ランチなのに一人2500円から、綾女が選んだのは3500円のコースだった。全員それを注文する。悪いよと言ったが、一人だけ安いとか許さないと言われた。


 肉は厚みがあり、柔らかく美味しかった。ステーキは、自宅で食べれるにしてもそこまで肉厚だと調理が大変だ。しかもうちの家庭事情だと、そこまでの高級食材が食卓に並ぶことはなかった。


「おいしい」

「本当、うまいよな」


「良かった」


 頬杖をついてじっと見つめる。少し悲しそうに見えた。やはり明日、俺は聖人とは会って欲しくない。


「ちょっと、手洗いに行ってくるね」


 愛がトイレに行った隙に俺は本心を告げた。


「明日、行って欲しくないよ。好きな綾女にはもう復讐して欲しいとも思わない」


 綾女はゆっくりとこちらに近づいてきた。近づいて、頬にキスをされた。


「えっ……」


「ありがと。わたしも好きよ」


「俺、好かれてないんじゃ」


「どうしてそう思ったの?」


「振られていたから……」


「わたしは付き合うべき女じゃないの。本当は雄一に告白されても、一緒に帰っちゃダメだった。雄一くんと釣り合いが取れる女でもない」


「そんなことないよ綾女のこと大好きだよ。そして、好きと言ってくれて本当嬉しかったよ」


「ううん、これはわたしのケジメ。それとね、雄一、わたし色々考えたけれど、うまくいくわけがないんだよ。だからね、もう……」


 綾女は一区切り置いた。ゆっくりと時間が流れる。


「もう、会わない方がいいと思うんだ」


「そんなことないよ、そんなこと……」


「どうしたの?」


 気づいたら妹の愛が隣にいた。


「なんでもないよ」


「そうそう、なんでもない」


 それから先は普通に楽しんだ。ゲームセンターでは、格闘ゲームでとんでもない連勝をして愛を驚かせた。プリクラを三人で撮った。いろんな店を買い物もしないで散策して回った。ふたりとも本当に楽しそうだった。さっきの言葉は無かったように感じれた。


 夕方まで楽しんで、電車に乗り別れ道までやってきた。


「じゃあね、わたしこっちだから」


「じゃあ、また……」


「楽しかったよ、お姉ちゃんまたね」


 綾女は家に帰って行った。俺も妹と一緒に家に帰った。二階の自室で着替えていたら、ラインが入った。


(雄一、さっきの話、途中になってごめんね。さっきも言ったけども、わたし達は会わない方がいいと思う。もちろん挨拶までしないわけじゃないけれどね。その方がお互いに苦しまずに済むと思うんだな。ごめんね、勝手に決めて。じゃあね……さよなら。今までありがとう。普通の女の子のように扱ってくれて、とても嬉しかった)


 その後、色々文章を送ったが、既読がつくだけでいくら待っても返信はなかった。


「なんでなんだよ、こんなのってないよ」


――――――


どうなってしまうのでしょう


今後もよろしくお願いします

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