第21話 お泊まり
「お姉ちゃん、来てたんだ。久しぶりぃ」
家に帰ると綾女がいたことに、妹の愛は喜んだ。突然帰ってしまっていたから、明日の予定も無くなったと思っていたようだ。
「明日、楽しみだよ」
「今日はね、ご飯も作ったんだ」
「すごい、家で人が作った料理食べれるなんて思ってなかったよ」
「そう思ってね、頑張ったよ。今日は雄一だって、頑張ったんだから」
綾女は俺のことを呼び捨てで呼んだ。初めてだった。ふたりの関係を変えようとしてるように見えた。
「俺が手伝ったって言っても、少し切ったくらいだよ」
「うわー、わたしの時と違う。いつもはお兄ちゃん何もしてくれないよ」
「でもかえって危ないこともあったよね。わたしが隣に立つだけで挙動不審になるし、手を添えたら、手を切りそうになるし……」
「流石だね」
妹の愛が俺を見て意味ありげに微笑んだ。
「うるせえなあ」
当然だった。俺は綾女のような可愛い女子と二人きりでいることなんてなかったのだから。
「明日、何時から出かけようか。楽しみだね」
「どーせなら、今日ここでお姉ちゃんと一緒に寝たいな」
「へっ、いいの」
考えてなかったのか綾女は驚いた表情をする。しかし、流石に撮影の衣装を見られたらやばいよ。
「是非、お姉ちゃんと語り明かしたいよ」
「じゃあさ、荷物取ってくるね」
「あれ、その荷物は?」
「これは、ねえ」
「てっきり、お泊まりの道具を用意してるのかと思ってた」
「違うのよ、ねっ」
「あぁ、そうなんだよ、これは料理を作るための道具なんだよ」
言い訳もそこそこに綾女は慌てて出ていった。残された俺と妹。妹が俺の腕に肘を当てた。
「やっと男になれたんだね、おめでとう」
「いや、それがまだ……」
「なんで」
「いや、昔、告白して振られたから、俺たちはそんな関係じゃないんだ」
「意味がわからないんですけども」
「俺、二回告白してるんだよね。今のところまだ友達だと思う」
「今日は一緒に寝るし、本当のところ聞いてあげよっか」
「いや、いいよ」
「でもさ、じゃああの鞄はなんだったの」
「いや、だから! 料理の道具」
「へえ、料理の道具って、最近は水着とか制服が入ってるんだね」
妹の目が俺をじっと見た。何してたのとその瞳は語っていた。流石は我が妹ながら、凄い観察力だ。俺たちがいないタイミングといえば服を着替えにいった時だった。
「もしかして制服フェチ?」
「えーと、ごめん。なんとでも言って」
「なんで、何もないんでしょうか」
「ちょっと、トイレに行ってくる」
「あっ、逃げた」
俺は慌ててトイレからスマホで制服と水着がバレたとLINEした。
(あちゃー、ごめんね。わたしのせいだよね。それじゃよろしくね)
(何がよろしくなんですか)
(いや、制服フェチだから制服着て欲しいと言われて、わたしもまあいいかなってお話にしようかって思った)
(エ○チもしてない関係なのに)
(この際したことにしようか)
(ダメだよ、それじゃあ、俺たち付き合ってるみたいになるじゃん)
(付き合ってないの? どこがどう?)
よく考えたら、付き合ってないカップルとの差が見当たらなかった。
(でも、告白断られてるから)
(だよねえ、そこに行き着くか)
LINEが少しの時間止まった。少し後に長文が送られてくる。
(わたしがあなたの彼女になるのと、普通の子がなるのとは違うの。でも、それは説明できないよ。もういいや、話合わしてね)
何か決心したようだった。その決意の言葉を聞いてかなり不安になった。
「ただいまー」
「おかえりーっ」
ふたりの挨拶がおかしい気がするが、重要なところはそこじゃない。
「お姉ちゃん、なんで制服とか水着持ってきてたの?」
普通の口調で聞く愛。
「どうしても、見せろってうるさくてね。高校生の時の懐かしい姿だからいいかなってね」
「じゃあさ、水着はどう?」
「水着撮影会したいって言ってたからねえ。雄一くん」
俺に色っぽい視線を向ける。
「つきあってもいないのに?」
「友達以上恋人未満なんだな、これが」
「綾女さんはそれでいいの」
「わたしは雄一くんなら気にならないかな」
そうか、綾女は好きか好きじゃないかわからないギリギリの線を狙ってたんだ。これなら俺が望めば制服や水着になる可能性はある。
と言うことは俺が変態認定されるのか。
「お兄ちゃんの変態!」
俺が変態になることで、姉妹仲が良くなるのであればそれでいいと思った。
ご飯を食べて交代で風呂も入り、後は寝るだけになった。俺は一人、自分の部屋でベッドに横になっていた。俺だけ寝室が別というのも悲しいものだ。特にあんなあられもない姿を見た後だけに、気になって仕方がない。
ベッドに寝転がってうつ伏せになる。綾女の匂いがした。これは色々とやばい。枕を鼻につけるとむせかえるような若い匂いが俺を支配した。隣から聞こえる笑い声と綾女の匂い。
格好つけた後で情けないことだが、正直あの時、布団を捲るべきだったと後悔していた。大好きな綾女とひとつになれた後はもっと仲良くなれそうな気がした。
変な貞操観念があって、それが理由で里帆を失ったのに、綾女も聖人の虜になってしまったら、俺は女性が信じられなくなりそうだ。
それにしても里帆は凄かった。どんな調教をされたら、人前で感じられるのだろうか。付き合ってた時の純粋な里帆を思い出した。今の里帆の触られた時の表情を想像する。数週間であんなに変わってしまうのか。少し興奮した。流石にそれは人としてやばい。
「ちょっと、愛ちゃん。どこ触ってるの」
変な妄想をしていたら隣から女子の黄色い声がした。俺は思わず聞き耳を立てる。
「だってぇ、お姉ちゃんおっぱい大きいもん」
「だからって、ダメだって。ね、……あっ」
俺は隣の部屋に全神経を集中した。なんてことになってるのか。見えない分想像力が研ぎ澄まされてくる。
「お兄ちゃんにパンツ見せたんでしょ、わたしも見ていいかな」
妹よ、それはちょっとやばくはないか。俺は壁に耳をつけて聞き耳を立ててしまう。気になって仕方がない。こんなレズな展開があっていいのか。
「やっぱり、白だ」
「ちょっと愛ちゃんダメだって隣に聞こえるよ」
「大丈夫、もう寝てるって」
「本当かなあ」
妹よ、こんな展開寝れるわけないじゃないか。強く耳をつけて集中した。
突然、扉が開いた。
「ほら、わたしの思った通りだ。お兄ちゃんの変態」
「えっと、その……もしかして今のこと聞いてた?」
「いや、聞いてないよ。ちょっと壁の調子が悪かったから、調べてただけだよ」
俺は目の前に立つ綾女を見た。明らかに不審そうな表情、腕は胸の前で組まれていた。
「……へんたい」
俺の築き上げてきた綾女への信頼はこの時音を立てて崩れ落ち、ゼロになった。
「すみませんでした」
もちろんここは土下座だ。綾女はお腹を抱えて笑い出した。
「やめてよー、ほら立って」
綾女が手を差し出してきた。温かい手だ。日曜日行かないでと言いたかった。
「嘘だよ。こんなので嫌いになれるなら、苦労なんてしないよー」
「お姉ちゃん、そんなに好きなんだ」
「えと、……その、そう言うわけじゃないよ」
「ほんとう、に?」
綾女は入ってきた時と違い終始気まずそうに下を向いて顔を赤らめていた。
本日は妹メインなお話でした。
明日はショッピング、そして明後日は、、、
今後ともよろしくお願いします。
応援していただき大変感謝です。
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