第20話 個人撮影会

 モール前、約束の時間5分前に着くともう綾女が待っていた。今日は水色のワンピースを清楚に着こなしている。短いスカートが多い綾女らしくなく、今日は長めのスカートだった。


「こんにちは、今日は楽しもうね」


「いつから待ってたの。遅くなってごめんな、それと待ち合わせ、モール前で良かったのか」

 

「ううん大丈夫、早いくらいだよ。私も今来たばかり。待ち合わせも大学終わってすぐ会えるから、ここがいいよ」


 綾女は嬉しそうに微笑んだ。


「それより今日行くところ、わたしに決めさせてくれる?」


「行きたいところあるんだ」


「うん、行きたいところはね……、雄一の家かな」


 俺は心臓が跳ねるのを感じた。誰もいない家に綾女とふたりきり、自宅を選ぶと言うことは当然に関係を持ってもおかしくないわけで……。


「なんか、勘違いしてるのかな?」


 俺が慌てているのに気づいて綾女が近づいた。肩にかけている大きな黒の鞄の存在に今更ながら気づく。


「その鞄、何が入ってるの?」


 自宅に行くにしては大きすぎる鞄だった。普段、綾女は学校に行く時以外は小さなポシェットを持ち歩くくらいしか荷物を持っていない。入っているものもスマホ、化粧品、ハンカチ、ティッシュくらいだろう。


「少し前に撮影会しよって言ったよね。妹さんがいるからって断られたけれども。今日なら大丈夫かと思ってね」


 個人撮影会の話だ。綾女はこのタイミングで俺に写真を撮って欲しいのだ。確かに撮影会はかなり興奮した。綾女の肢体の美しさに魅了され、撮影もできなかったのだ。


「でも、俺カメラとか持ってないんだよ。撮るならスマホしかなくて、親友の裕二にも以前、怒られたんだけどさ」


「えっ、キミ撮影会の時には、立派なカメラを持ってなかったっけ」


「あれは……、裕二に借りたんだ。指摘がなかったら、スマホで撮影してた、と思う」


「それはやばかったね。撮影会に来る人ガチだから、スマホで撮影してたら、わたしの撮影にスマホを使うのか、って怒られてたかも知れない」


「裕二もそんなこと言ってたよ。それなら個人撮影会なんてしない方がいいんじゃないの?」


「わたし個人はスマホでいいと思ってる。むしろ今日は、スマホがいい。だって、わたしの写真を持ち歩いてくれるんだよ。その方が嬉しいよ」


 恥ずかしそうに視線を下ろす。歩く歩調が少しゆっくりになっていた。


「荷物、持ってあげるよ。ごめん気づかなくて……」


「ありがとう。でもね、これ思ったより重くないかも」


 綾女の荷物を肩から持ち上げた。確かに見た目よりは軽かった。それでも女の子が持つには重いだろう。


「大丈夫、綾女さんにはちょっと重いから、やっぱり持つよ」


「ありがと。この中には衣装が入ってるんだよ。撮影会楽しみだね」


「あんまり刺激的な衣装だと、我慢できなくなるかもよ」


 少し前を歩く綾女は手を後ろに握った。話し出すまでに少しの間があった。


「我慢しなくていいんだよ。雄一くんが女にしてくれたら、わたし楽になれるかもね」


 目の前を歩く綾女が何を考えているのか少しわかった。今日、撮影会をしたのは、やはり聖人に抱かれる前に彼女なりのケジメをつけたいのかもしれない。


「いや、まだ俺には早いと思う。俺は綾女さんが告白を受け入れてくれる日を待ちたいんだ。好きでもない男と関係を持つのは、間違っていると思う」


 本心はどうだろう。聖人に抱かれるのは嫌だった。あの男のことだから、どんな手段で、綾女を自分のモノにしようと考えているのか分かったものではない。里帆の変わり様を見たら、綾女もおもちゃにされてしまいそうで、怖かった。


「雄一らしいよ。その考えわたしは嫌いじゃない」


 電車に乗り、駅を降りていつもの分岐前まで歩いて来た。真っ直ぐ歩くと綾女の家があるはずだ。


「雄一の家に行こうよ」


 分岐を曲がり、俺の家の前までやってきた。ドアを開けて、家に入る。今、この家には俺と綾女しかいない。俺は綾女を見て唾を飲み込んだ。目の前の綾女がこっちを見て嬉しそうに微笑む。


「雄一の部屋で、着替えて良いかな」


「うん、じゃあ廊下に出てるから、着替えたら呼んでね」


 部屋を出て廊下で待っていると、服を脱ぐ衣擦れの音がする。どうしてもあられもない姿になっている綾女を想像してしまう。視覚で捉えるよりも想像する方が興奮することがある。あの可愛い綾女が明後日、聖人に犯されるのか。それはやはり耐えられないことだった。


「開けて良いよ」


 扉を開けて中に入ると、茶色のブレザーに身を包んだ綾女がいた。目の前の綾女はまさに女子高生だった。


「今回はちゃんと撮影してね」


 いたずらっぽく微笑む。俺のベッドに横になり、お尻を大きく突き出した。もちろん白のパンツがはっきりと見えた。綾女が制服姿で卑猥なポーズを取り、布団にいるというだけで興奮してくる。


「撮影してくれていいよ」


 俺の枕を抱いてポーズを撮った。スマホ越しの妖艶な姿が俺を挑発しているようだ。写真を数枚撮った。下心を隠していやらしく見えないように撮影してたら、もっと下から撮影してよ、と注文される。俺は綾女の言うアングルで構える。確かにこれはやばい。


「ちょっと見せてね」


 自分の写ってる写真を見ながら、わたしエ○いね、と嬉しそうに微笑んだ。


「次の撮影するから、もう一度廊下に出てね」


 綾女が衣装を着替えるため、廊下に出て数分待った。さっきの光景が頭に焼き付いて離れない。今日は綾女の寝ていた姿を想像してしまい眠れそうになかった。


「どうぞ、着替えたよ」


 扉を開けると黄色い水着が目に飛び込んできた。単色の色はストライプなどが入る水着よりいやらしく感じた。


 ベッドにお尻を上げたポーズをする。俺のベッドは綾女の匂いがしそうだ、と思った。もっと近づいて撮ってと撮影指示が入る。綾女を覆っているのは、小さなビキニの水着だけである。大きな胸が惜しげもなく目に飛び込んできて、思わず視線をそらしてしまった。


「カメラマンが撮影中にカメラから視線を外しちゃダメじゃない」


 俺の気持ちがわかって、挑発しているのだろう。手を伸ばせば押し倒してしまいそうだ。必死に欲望を抑えていると言うのに……。


「次が最後の衣装だよ」


 俺がもう一度、廊下に立つとあまり待たされることなく、呼ばれた。


「あれ、どうしたの」


 綾女は俺のベッドで寝ていた。瞳がいつになく落ち着かなく、ソワソワしていた。


「布団に入ってたら撮影できないかもしれないよ」


「そだね、だから雄一が布団を取ってくれたらいいんだよ」


 綾女は色っぽい視線を俺に投げかけてくる。俺は嫌な予感がした。綾女は今、裸なのではないだろうか。今までの撮影とは明らかに雰囲気が違った。


「ごめん、布団を取るわけには行かないよ。元の服に着替えな。さっきも言ったように俺は今の関係では抱けないから……」


「バレちゃったか」


 綾女は俺が廊下から戻った時には会った時のワンピースに戻っていた。


 俺の映した写真を評価しながら、綾女は嬉しそうに見つめていた。日曜日、俺はどうすれば良いのだろうか。


 綾女の言う通りに従い聖人に抱かせるのならば、きっと今抱くべきなんだろう。綾女は俺とひとつになれたことで、聖人に抱かれても俺を信じられるのかも知れない。


 そのために今日ここに来たのだ。その手を俺は取らなかった。一体何がしたいんだ、と苛立つ自分がいた。


「夕食、買いに行こうか」


 今日はわたしが作ってあげるよ、と意気込む。妹が帰って来たら、明日の話に花を咲かせるのだろうか。さっきとは異なり、年頃の女の子がそこにいた。



――――――


 主人公くんの倫理観とヒロインの綾女ちゃんの倫理観が違うところ大変ですね。


 このお話はそこが肝なんですよね。


 いつも読んでくださり、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

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