第18話 聖人ふたたび

「昼休み綾女さんと3人で食べないか」


 ゼミへの移動中、聖人に声をかけられた。なぜ、俺に声をかけてくるんだ。


「用事はないけど、どういう風の吹き回しだ」


「いや、綾女さんは君の友達だったから、話は通しておこうと思ってな」


 日曜日のデートの予定を昼休みのカフェで決めるのか。予想通りだけれど、分かっていてもこれはキツイな。


 帰宅途中のファーストフードで決めないのは、綾女が俺に気を使ってくれているからだろう。帰宅時に予定を入れたら一緒に帰ることは、できなくなる。


「綾女さんとデートするのか」

「当たり前だろ、デートの日程を決めるんだから」

「里帆は、どうするんだ」

 

 綾女と付き合って里帆と別れる。普通のつき合いであればそうなる。しかし、この男は違うような気がした。


「さすがにふたりと付き合うわけにはいかないから、里帆には僕の友達とつき合わそうと思ってるんだ。そうしたら色んなことできそうだし」


 ちょっと待て。あまりにも非常識すぎる話だ。


「別れるつもりはないんだね」


「別れて君の彼女になってもらうのが一番良いとは思ってるよ。でもきっと里帆がそう言わないと思うんだよね」


 いやらしそうな表情を隠そうともせずに俺を見てくる。言うことが想像できてしまい俺はあからさまに嫌な顔をした。


「君じゃ、彼女を満足させられないからね。もちろん里帆だけじゃなくて、綾女さんもね。両方まとめて女の喜びを教えて、僕のものにするから、感謝してくれていいんだよ」


 もし、綾女と話をしていなければきっと殴りかかっていただろう。今必要なのは冷静さだ、俺は自分に言い聞かせた。冷静だったから、スマホで録音できた。これはきっと証拠になる。


「昼休み、カフェに行けばいいんだよな」


 聖人は俺の返事を聞いて、面白いものを見るように笑った。きっと口答えすらできないのかと馬鹿にしているのだろう。


「来ないのでは、と心配になったけど、来るんだね。綾女さんに余計なこと言ったら、里帆のこと保証できないから。言動には気をつけるんだね」


「保証できないとはどう言うことだ」


「まあ、彼女は俺に心底惚れてるからね。何だってすると思うよ。例えば子供の時に歌った童謡のように。なんだっけ、そうだ。友達百人とセ○クスできるかな、とかね。流石に百人は無理かな」


 こいつがどれだけクズかはよく分かった。本当に話しているだけでイライラしてしまう。底が浅い軽い男。女の価値を性的な部分でしか見ることができないのだろう。


「別に綾女さんには言わないよ」


「そうか、それなら気にする必要もないかな」


 大きな笑い声を立てて、ゼミの教室に入って行った。


―――――


 俺がカフェに着くと聖人はまだ来ていなかった。席を取って座っていた綾女が、嫌そうな表情をした。

 

「なんでここに来たの?」


 止めに来たと思ったのだろう。本当はそうしたいのだが。


「聖人が俺にも聞かせたいらしい」


 綾女が顔を近づけて、小さい声で呟いた。


「予想以上のクズね。分かってただけども。何故それに乗ってるのよ」


「気になって仕方がないから」


「話を聞いてもいい気分になるとは思えないけど」


「それは分かってる」


「本当かなぁ、一応断っておくけど、絶対成功させないといけないから、君に酷いことを言っちゃうかもしれないよ」


「だろうね。僕との関係わかったら、取り逃がすかもしれないもんね」


 綾女と話をしていると聖人がカフェに入ってきた。傘立てに傘を立ててこちらに歩いてくる。


「お待たせ」

「ううん、待ってないよ」


 俺に顔を見せることもなく見つめ合うふたり。綾女から話を聞いてなければ、恋をしていると勘違いしそうなくらい迫真の演技だった。


 俺の心が張り裂けそうになるくらい色っぽい表情する。目がとろんとして、じっと聖人を見つめている。きっとこの表情を見れば、殆どの男は堕ちたと思うはずだ。もちろん聖人も例外ではなかった。


「今日の綾女ちゃんどうしたの。もしかして、僕に恋をしちゃった、とか」


「そうかも。聖人くん、雄一と違ってかっこいいし、なんか大人だし、それにねエ○チも上手そう」


 綾女は髪をかき上げて、聖人に物欲しそうな表情で呟いた。

 聖人は俺の名前が出た時、嬉しそうに口元が歪んだ。性的な話が出たことで更に嬉しかったのだろう。


 俺を見て満足げな笑みを浮かべる。とびっきりの美少女を俺から奪えたことが嬉しいのだろう。俺が恋をしている女をどう料理してやろうかと考えてるのか。卑猥ひわいな笑みを浮かべた。


「そんなこと言っていいのかな。雄一ここにいるけども」


「ごめんね雄一くん、わたし、……なんか我慢できない」


 分かっていても、この言葉に胸が張り裂けそうに苦しい。本当はここにいたくない、と思った。それはダメだ。もし、ここから逃げたら、綾女が動揺して、気づかれてしまう。


 それは考えうる最悪な事態である。聖人が綾女の耳元に顔を近づけ何かを話している。綾女が下を向いて頬を染めた。


 きっとかなり卑猥なことを言ったに違いない。結局、待ち合わせ場所は、いつも待ち合わせに利用しているモール前10時に決まった。これを聞けただけでも、ここに来て良かった。


―――――――


 帰宅途中、予想通り綾女の愚痴を聞くことになった。


「なんなのあれ、マヂで最悪なんですけど」


「予想通りなんだけど、耳元で何言われたの?」


「もしよかったら、今日ホテル行かないって誘ってきた。気ぃ抜いてたから、はあって言いそうになった」


 思わず笑ってしまった。完璧に見える綾女でもミスしそうになるんだ。


「で、なんで答えたの?」


「本当にごめんなさい。本当は行きたいよ。でも、今日はお母さんから早く帰りなさいと言われてて」


「お母さん、いたっけ?」


「うるさいなあ、とっさに思い浮かばなかったんだよ。まあ、別に今後会うつもりもないし、むしろ早く逮捕されて欲しいから、嘘でもいいよね」


 ある意味、凄いな、と思った。あの演技絶対信じるよ。


「あー、またLINEきた。早く終わらないかなあ。そのうち化けの皮剥がれそう」


 隣を歩く綾女は、たびたび届く聖人からのLINEに心底嫌そうに返していた。


 じゃあね、俺たちは分岐点で分かれた。


 本当にこのままでいいのだろうか。俺は抱きあったという報告なんて絶対受けたくない。


――――


どうなるんでしょうね。

今後のふたりに注目です。


読んで頂きありがとうございました。


今後ともよろしくお願いします。

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