第16話 妹と綾女
妹の俺への想いはくすぶり続けて19年。隠し続けて来た―らしい。できれば一生隠していて欲しかった。そんな急に言われても困る。
愛はよく見ると可愛かった。綾女が川上と不倫関係にある今、俺と愛への障害は実の妹というだけだ。俺も男だ、決して女の子に興味がないわけではない。だからこそ、ダメなんだ。
「ちょっと座って」
目の前にちょこんと座る愛。異性として意識してこなかっただけに、意識し出すとやばい。
「俺たちって、実の兄妹じゃん。付き合うとかできないし、してはいけないと思うんだ」
「分かってるよ、わたしだって子供じゃないから……。だから謝る、ごめんね。キスくらいなら、と思ってしまった」
「キスしたら、きっと引き返せなくなる」
「えと、それって……」
「だからさ、俺も愛のこと可愛いとは思ってるよ。ただ、この話はここで終わりにしてくれないか」
「分かった、ごめんね。困らせちゃって」
愛は俺の胸に飛び込んだ。いや、絶対わかってないだろ。俺は両腕をどうしようか悩んでやがてギュッと抱きしめた。うわ、すげえやわらかい。こんなに柔らかかったっけ。胸も思ったよりはあった。
「今だけ、このままでいたい」
女の子独特の匂いと、柔らかさで幸福に満たされる。心の中で唱えた。
静まれ、静まれ、静まれ……。
「ありがとう、お兄ちゃん。また明日」
妹はそれだけ言うと自分の部屋に帰って行った。俺は暴れ出す感情を押さえた。
やべえ、実の妹なのに俺の下腹部は今日も元気だった。
これは困ったことになったぞ。母親は亡くなっている。父親は金を送ってくるだけで、滅多に家にいない。正直、愛とふたりだけの時間が長いのだ。今までよく間違いもなく生きてこれたわ。こんな誘惑何度もされたら、いつ間違いが起こってもおかしくない。
事実婚か、一瞬浮かんでかき消した。だめだ、それはお互い不幸になる。子供なんかできたら、どう説明するの。
横になりながら悶々としていたら、LINEが鳴った。綾女だった。慌てて内容を見た。
(今から電話していいかな?)
俺の心が冷や水を浴びせられたように冷静さを取り戻す。今朝のことが思い出された。
(いいけど、どうした)
電話のベルが鳴った。通話ボタンを押す。
「もしもし、ごめんね夜遅くに……」
「いや、いいけど」
俺は川上のことを聞きたいと思った。ただ、聞いたところでどうなると言うのだ。
「来週日曜日、聖人と会うことにしたの」
「なんで、俺に言うんだよ。俺なら別にもういいと思ってる。里帆とも戻ることもないし、聖人はムカつくけど、仕返ししたいと言う気持ちは湧いてこない」
「そうなんだ。わたしね、あいつのこと色々調べたんだよ。でね、あいつに無茶苦茶にされた娘がかなりの数にのぼることもわかった。あいつは、経験のない女の子を寝とるのを趣味にしていてるの」
知らなかった。里帆だけじゃなかったんだ。
「警察沙汰にはなってないけど、捨てられて自殺未遂した子もいるし、多くの人に乱暴された子もかなりいるの」
「警察って動けないのか?」
「被害届は出てるけど、自由恋愛を隠れ蓑にしてるわ。流れとしてはこんな感じ。経験のなさそうな娘の悩みを聞いてあげるフリをして寝とって、自分のものにする。自分だけの女にするために身体を開発する。最終的に多人数の男に抱かせる。それでも好きと言う女はだいたい、ソ○プに堕として金づるにしてると聞く」
「質の悪いAVそのままの内容じゃないか」
「そう、恐らくレイプ願望というか、可愛い女の子を堕とすのを趣味にしてるのよ。里帆さんもきっとそうなる。流石にそれは止めたい。この流れを暴くことができれば、きっとあいつを逮捕できる」
「なぜ、あいつのことをそこまで憎んでるんだ? 確かに信じられないやつだけど、そこまで調べたと言うことは初めから気づいていたんじゃ……」
「だって、聖人は、わたしのお母さんを自殺に追い込んだやつの息子なんだよ!」
俺はやっとわかった。今まで不思議だった。俺が聖人のことを話した時、あんなに怒ってくれたこと。彼女は最初から知ってたんだ。
「川上は、そのこと知ってるのか。その綾女が相手と、その寝ようとしてること」
それでもケジメはつけておかないと、と思った。俺は付き合ってもいなかった。だから、そこまで言われたら止められない。でも、川上には言うべきだろう。
「なぜ、そこで川上さんの名前がでてくるの?」
不思議そうな口調だった。朝のことなんて、何もなかった。もちろん、付き合ってもいない。言葉からはそう言ってるように見えた。流石にそれはだめだろ。俺は勇気を振り絞った。
「朝、見たんだ。悪いと思ったけど日曜日のこと気になって、お前をつけてしまった。そしたら……」
「えと、ごめん何を言ってるか、あっ……」
少しの間をおいて、電話から綾女の声がした。
「ちょっと遅いけど会えないかな。近所のファミレスなら開いてると思うし。そのもし良かったら分岐のところで待ってくれると嬉しいかな。夜も遅いし、……ね」
「わかった。すぐ行くよ」
なんの話かわからないけど、ちゃんと言えたことは嬉しかった。本当のことを聞けそうだった。
―――――
これからどんな話があるのでしょうね
応援ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
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