サイドストーリー 愛

「あんまり長居すると悪いし帰るわ」

「じゃあね、裕二くん」


 愛は名残惜しいのか、長い間手を振っていた。


「料理の用意するから、お兄ちゃん上に行ってよ」


 二階のベッドに座った俺には二つの問題があった。ひとつは今日知ってしまった綾女と川上の秘められた恋。もうひとつは俺の実妹愛と裕二の恋だ。


 ひとつ目は俺にとって最重要だが、今日どうなるものでもない。問題はもうひとつの方だ。愛が裕二を好きなのであれば応援してやらないとならない。


 今まで愛の浮いた話なんて、全くなかった。ラブレターももらってたし、告白されてる姿も見たことはある。俺に頼みにきた男もいた。愛は全ての誘いを断って来たのだ。


 サッカー部のエースだった山下輝もクラスで一番イケメンな齋藤隆も全て散った。何度聞いても理由は教えてくれなかった。


 それが今日初めて愛の方から頬を染めたのだ。俺はこの恋を是非かなえてあげたい。


 夕食中に話題を出すタイミングを見計らった。今日のメニューはエッグハンバーグ、味噌汁、ご飯にサラダだ。


「美味しい?」

 妹は頬杖をつきながら、俺をじっと眺めていた。趣味なのか俺が食べだすと決まって、自分の料理より優先して、じっと眺めてくる。不思議な趣味だなと思った。


「いつも美味いよな。愛の手料理を毎日食べれて幸せだよ」


「それを聞くだけでわたしは幸せ」

 妹は嬉しそうに微笑んだ。


「そう言えばさ。お前誰か好きな人いるの?」

 俺はさりげなく聞いてみる。目の前の妹が明らかに動揺しているように見えた。さっきよりはっきりと頬を染めていた。やはり、裕二に恋をしてるのか。


「えと、好きな人はいるよ」

 妹ははっきりと言った。その頭文字を俺は伝えた。


「名前の頭文字は、『ゆ』だよな」

 妹は恥ずかしそうに頷く。


「で、真ん中の文字は『う』だ」

 再度、顔を赤らめてうなづいた。間違いない。俺は確信を持って、三文字目を言う。


「三文字目は『じ』だよな」

 目の前の妹は大きく顔を左右に振った。


「えっ、なんでよ。さっき顔を赤らめてたじゃん」

「あっ、裕二くんの事言ってたの? だってさ。お兄ちゃんの部屋でエ○チなDVD見ちゃったから恥ずかしくてね」

「はい?」

「そりゃさ、年頃なんだからグラビアとかは気にならなかったんだよ。でも、さすがにアダルトDVDは恥ずかしかったんだから」

 俺は思い当たる節がなかった。俺の部屋にあったのは、イメージDVDでアダルトDVDではない。


「嘘だと思うなら、上のお兄ちゃんの部屋に行こうね」

 二階に上がって、ベッドの上を眺めた。隠されることもなく確かにアダルトDVDがあった。俺は慌てて隠した。


「どうしたの?」

 流石に綾女のアダルトDVDはまずすぎる。俺は必死になって隠した。抵抗虚しく、妹に取られてしまう。


「成宮千佳か。お兄ちゃんこう言う娘が好きなの?」

「はぁ? 成宮千佳って誰よ」

「私が知りたいわよ」

 タイトルを見ると確かにその名前だった。裕二に慌てて電話をかける。


「あー、あれな。流石にお前に綾女ちゃんのアダルトDVD渡したら絶対見ねえから、2番目に可愛い娘にしたんだ。俺に感謝しろよ」


 俺はその言葉を聞いて、すぐに切った。今回の勘違いも、全てこのDVDのせいだ。


「愛、これ捨てといて」

「えー、話の流れから裕二くんのだよね。そんなことして大丈夫?」

「大丈夫、処分しといたったと言っとくから」

「流石にできないよ。これ返しといてね」


 結局、愛から受け取ったDVDは袋に入れられ鞄の中に入った。


「妹よ、そう言えばさ。最後の文字が『じ』じゃないとするとゆ、うの後はなんだよ……」

 妹がなぜか顔を赤らめた。これは聞くべき内容じゃなかったとすぐに理解する。


「あっ、言わなくていいよ」

「お兄ちゃん待ってよ。聞いてよ」

「いや、きっと聞かない方がいい」

「だめだよ、こんな気持ち隠すべきじゃない」


「いや、隠すべきだと思うぞ。いや、むしろそれ聞いて、俺どーすんの」

「お兄ちゃんは今まで通りでいいよ」

 答えは聞かなくても、話の内容から答えは出たようなものだった。


「あのさ、俺たち実の兄妹だよな」

「そうだよ、それがどうしたの」

「いや、どうもしないけど、なら何故そこに俺の名前が出るの?」

「お兄ちゃんが、好きだからだよ」

 妹は俺に近づいて、瞳を閉じた。


 いや、だからおかしいって。


「結局、必死に言い訳して、二階の部屋から妹をなんとか追い出して鍵をかけた。心の中で妹ごめんと言う。流石にその想いには答えられない。人としてな」


「お兄ちゃん、開けてぇ」

「いや、開けない」


 こうして夜は更けていった。


――――――


サイドストーリーです。

どーでしょうか。


たまにはこう言うのもいかがかな?

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