第13話 撮影会 後編
秋葉原の信長書店前に俺はいた。格好は気にした。とは言っても、俺のレパートリーはしれてるのだが……。
「来たか、ここから入るぞ」
階段を上がった信長書店の3階に特設会場が用意されていた。話し合いで色々と注文したのだろう。
アイドルのコンサート会場のようなレイアウトになっていた。撮影のためのスペースがきっちりと取られていた。
「これがお前の撮影機材な」
プロ顔負けのカメラだった。俺が使いこなせるのか。不安そうな顔をしていると……。
「大丈夫だよ、これ殆どオートだから初心者向きなんだ。スマホと同じで被写体を入れて押せば撮影できるから気にすんな」
周りには同じような撮影機材を目の前の会場にむけて撮影準備をしている人が何十人もいる。イケメンの大学生風の男が話しかけてきた。同い年くらいだろうか。
「あれ、君はじめて見るね。新しい優衣ちゃんのファンか」
「はい、そうです」
「DVDどのくらい見たの」
「いや、俺はあんまり」
「そうなの? おすすめ教えてあげようか。優衣ちゃん可愛いよなあ。喘ぎ声も最高だよ」
やはり喘ぐのか、当たり前のことだったが。俺は聞きたくなかった。知らない男に感じてるなんて頭がおかしくなりそうだ。
俺の微妙な雰囲気を察したのか裕二がフォローしてきた。
「あー、こいつはあやねん時代のファンだから」
「あー、ならこの話はしちゃいけねえよな」
あやねんってなんだ。不思議な用語が飛び出していた。綾女は優衣という名前のアダルト女優だ。彼女にもきっと過去がある。それは、普通の女子高生の過去のはずだ。
「なあ、あやねんってなんだ」
「気にすんな」
俺はこの言葉が気になった。あまりにも綾女のことを知らない。
「今日はみなさん、お集まりくださりありがとうございました」
目の前に主催者の男と綾女がいた。いつもより化粧が濃く少し大人びて見えた。でも、あどけなさは隠せていない。やはり可愛かった。
「優衣ちゃん、可愛いよ」
ファンの多数から声が上がった。
綾女は周りを見回しながら、ファン一人一人を笑顔で見ていく。視線が俺のところに来た時に、何してんのと言いたげな表情に変わった。
俺の目を
目の前の綾女は、黒のブレザーにチェックのスカートだった。大学二年生だが、今の格好はどう見ても高校生だった。凄く似合って可愛かった。
少しおしゃれな女子高生。学生服を着ても全く違和感がない。こんな可愛い女子高生、街中で探しても滅多に見つからない。
「じゃあ、撮影会行ってみましょう」
主催者の男はそれだけ言って会場から出て行った。
持ち時間は3分だった。交代でポーズをお願いして撮影していく。みんな目の前の綾女にポーズを伝えて、何枚か撮影していた。
結構エ○チなポーズも要求していた。スカートの丈が短いから、パンツが見えてもおかしくはない。会場の雰囲気に圧倒されながらも、可愛い綾女に釘付けになった。
嫉妬はあるけれど、ファンたちはみんな良い人に見えた。綾女を心から愛してくれている人ばかりだから、嫌な気はしなかった。
俺の番がやってきた。綾女は笑みを浮かべどんな格好にしようかと呟き、俺の耳元に顔を近づけた。小さな声だけど確実に俺の耳に届いた。
「何で今日ここにいるのよ、ちゃんと後で教えてもらうからね」
そう言った後、綾女は俺にお尻を上げてポーズを取った。みんなからは見えないけど、俺には確実にパンツが見える角度だった。
「うわ、すげえかっこ頼むなあ」
俺がお願いした格好が凄いと大騒ぎになっていた。あまり過激なポーズは頼んでも断られることの方が多いらしい。羨ましいぞ、と口々に言われた。もちろん俺は何も頼んでなかった。
その光景が衝撃的すぎて、ただ驚いていた。はじめて見た綾女の白い下着に興奮したのもある。それ以上に表情がエ○かった。妖艶な姿に心が飲み込まれていくように感じた。呆然としていたら、綾女が声をかけてきた。
「どうしたの? 刺激強すぎたかな。好きな姿勢言ってくれていいんだよ」
瞳を潤ませて俺を見てくる。いつもの心配そうな表情だった。その声は他のファンの声にかき消される。普通、撮影中に優衣の方から声をかけることはないのだ。
しかも複数のポーズをお願いしても必ず断られる。撮影途中に優衣の方からポーズの変更を言ったことで大騒ぎになった。
「ちょっと優衣何してるのよ」
スタッフは事態を収集させるために必死になってた。疲れてるのね、などと言って必死になって事態を収めた。
「ごめんなさい。そのままで大丈夫ですから」
俺が言った瞬間、3分経過のタイマーが鳴った。シャッターを押す余裕なんてなかった。
主催の男がやってきて、次からは水着撮影になりますと伝えてくる。綾女は、目の前の簡単な緑のカーテンの中に入って、着替えるようだった。入る前に色っぽい視線を向けて入って行った。
カーテンはあるけれど、殆ど
普段の彼女とのあまりのギャップに衝撃を受けた。多くのファンの視線を向けられてポーズを取る綾女の姿に嫉妬を覚えた。それ以上に興奮している自分がいた。
再度登場した綾女は、小さいな黒のビキニの水着をつけていた。グラビアアイドルでも同じような格好で撮影してる娘はいるが、ここまで夢中にさせることはないだろう。
しかも腰は無茶苦茶細く、胸が大きかった。
ファンたちは夢中で称賛の声をあげていた。今、この撮影会場は優衣という女の子を中心に回ってた。
ファンたちは様々なポーズをお願いしていた。はっきり言ってかなりエ○くて、そして俺の胸は痛かった。それでも何か凄いものに巻き込まれているような気がして興奮した。
水着撮影で俺は普通のポーズをお願いした。耳元に顔を近づけ、小さな声で俺だけに届くように言った。
「さっきはごめんね。このポーズは普通だね、まあ君らしいけどね」
お願いしたのは、普通に腰に手を当てただけの格好だった。その表情に俺は釘付けになった。どんなAVよりも興奮した。優衣と呼ばれた少女に夢中になった。
いつもの綾女も可愛いけども、興奮することはなかった。普段とは違う表情が堪らなく可愛く綺麗で、苦しかった。そして、興奮させられた。
結局、この会場のファン達は優衣という少女の
あまりにも凄くて喉がカラカラになっていた。いつもと違う姿にただただ、興奮していた。シャッターを押すことはできずカメラは一枚も撮れてなかった。
「はい、ありがとうございました」
会場に主催者の男が現れた。綾女と一緒に頭を下げた。
「次の撮影会もここでやりますので、また応援してください」
綾女は昨日の打ち合わせで、主催者を納得させただけでなく、複数の撮影会の約束を取り付けていたのか。綾女は凄いと思った。自分にはとてもできそうになかった。
二時間行われたショーは大興奮の中幕を閉じた。集まったファン達はいい人ばかりだった。口々に今日の優衣のことを称賛していた。自分と同じく優衣に魅入られた人たちだった。
帰り際に裕二が俺に小さな声で話しかけてきた。
「お前、綾女さんを完全に困らせてたぞ。もっと気を使えよな」
確かにそうだろう。一枚も撮らないなんてただでさえ目立つのに、友達だ。気にならないわけがない。
「打ち上げいくけど、雄一も来いよ」
みんな優しい目をしていた。綾女はこんなに人たちに愛されてるんだと感じた。
一緒に行こうと思った時に、スマホの音が鳴った。LINEの着信音だった。
(もう帰った? もしよければだけどね。撮影会後の打ち上げに来ない?)
俺の心臓の鼓動が強く脈を打つのを感じた。俺は綾女に強く惹かれていた。すぐにでも会いたかった。撮影の時の興奮が忘れられない。完全に綾女の演じる優衣に心を持っていかれていた。
「おい、早く来いよ」
再度、雄二の声が前から聞こえた。
――――――
やっとこさ、ここまで来た。
裕一の知らない綾女のお仕事のお話でした。
いつもと違う綾女はいかがだったでしょうか。
不思議な用語も飛び出してきました。
いつも応援ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
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