第5話 幼馴染と並んで登校
「わたし身バレするとまずいから一緒に通学するのやめとこか」
俺は目覚ましを止めて、もう一眠りする。
あの日、綾女は幼馴染である里帆に完全に敵視されていた。身バレでもすれば、学校に連絡、即自主退学になりそうな勢いだった。綾女が距離を置きたくなる気持ちもわかる。
結局、一緒に帰るのも危ないからと別々に帰った。三日前のラインに残る文字。ごめんな、と送ったら、いいよ雄一が悪いんじゃないから気にしないで、と送られた。スマホを閉じようとすると続く言葉があった。寝取らせ計画は進めとくから、安心して。俺は胸に痛みを感じた。
綾女が
「うーん、これは色々まずくないか」
想像したら、変なところが元気になった。下半身は正直というが、俺は好きな女を寝取らせることに興奮するのか。
嫌だなあ、綾女と聖人がひとつになったと言う報告は、聞きたくなかった。
暫くベッドの中で物思いに耽っていたらインターフォンの鳴る音が聞こえた。綾女が迎えに来てくれたんだろうか。期待してベッドから飛び起きるが、インターフォンに出た愛の声を聞いて、一生寝ていたくなった。
「あれ、久しぶりだね。
階段を上がってくる愛の足音が聞こえてきた。なんで、あいつがやってくるんだよ。
「お兄ちゃん、起きて」
扉を開けて妹の愛が入ってきた。今年から大学に通っている愛。明治大学には受からず、日大に行っていた。不合格だった時の悔しかった顔は今でも忘れない。試験は残酷だ。
「どうした?」
誰が来たかわかっているのだが、俺は知らないふりをした。
「里帆お姉ちゃん、来たよ。起きてよ」
思い切り揺さぶられた。漫画でこんな描写がある時は、ツンデレ義妹だったりする。愛はツンデレでも血が繋がってないこともなかった。萌え要素なんて微塵も感じないさせず、むしろ萎え要素全開だった。
「死んだって、言っといて」
俺はもう一眠りしようと思い布団に
「言えるわけないでしょ。お兄ちゃんが降りてって言いなさい」
死者がわたし死にましたって、目の前で言うのか。それこそホラーだ。
「ほらほら、服を着替えて」
俺の服をテキパキと用意した。
「これで良いよね」
「じゃあ、着替えるから出て行って」
「なんで」
普通、女の子なら恥ずかしがって出ていくのがお約束だ。目の前の妹はベッドに腰をかけた。出ていく気配はない。
「いや、着替えなんか見たくないだろ」
「そう言って、また寝るのわかってるから、ここにいるよ」
恥じらいなんて、あるわけもないか。まあそれ以上に信頼がないわけだが……。
結局、妹の前で着替える。意識すらせずに脱いでたから、慣れられてしまった。やめて変態とか、そんな恥じらいも無いなんて、女として終わってるぞ妹よ。彼氏ができた時、大丈夫なのか。ほら、これがお○ぱいよ、と鬼気迫って、彼氏を押し倒したりしないよな。
つまらない心配をしながら着替えた。まあそう言う時は恥ずかしい振りはするかな。女は女優だしな。
顔を洗って髭を剃って髪をとかして、整髪料で整えた。出かけようとしたら、後ろから妹の愛の声がする。
「ごはん!!」
「今日はいいよ」
俺は家を出て、目の前の幼馴染である里帆に声をかけた。
「おはよ」
「ほら、戻って。愛ちゃんご飯だって」
「いや、いいよ朝は食欲わかねえんだよ」
「ダメだって。たったひとりの妹でしょう。ちゃんと食べてあげないと。わたしは待ってるから大丈夫よ」
微かな笑顔を見せた。つきあってる時は、この笑顔に救われてたんだよな。でも今更なんで……。
「なあ、お前。聖人のモノだろ。なんでここにいるんだよ」
「雄一、女の子をモノ扱いしたらダメだよ。女の子はモノじゃないからね」
言いたいところはそこじゃないだろ。俺は里帆のことを本気で好きだったんだからな。俺の視線に気づいたのか、少し慌てた表情で続けた。
「ごめんね、あんなことあった後なのにね」
「別れたのか」
里帆はゆっくりと、しかし確実に首を振った。
ヨリを戻したかったわけじゃない。土下座までしたあの日、俺の心の糸は完全に切れてしまった。
「じゃあ俺に付きまとうなよ」
「そんなのダメよ。わたしはあなたの彼女以前に幼馴染だからね。雄一を見てあげないと、ね」
昔の調子でお節介を焼いてくる、今はそれが嫌だった。大きなお世話なのだ。子供でもあるまいし。イライラしたが声に出しては……。
「聖人は、文句を言わないのか」
ちょっと気になった。里帆はこちらに振り向いて嬉しそうに言った。
「聖人が気にしてやれって、言ってくれた。きっとわたしがずっと心配してたからかな」
本当にそうなのか。聖人は綾女に魅かれていた。あんな分かりやすい姿を見れば誰にだってわかる。俺は里帆が可哀想に思えた。何も気づかないうちに終わっていくのだろうか。
「行こうよ。愛には悪いけど、ちょっと話をしたいから」
「うん、……わかった」
俺と里帆は並んで歩いた。全ては綾女の言った通りに破綻に向かって動いていた。
「聖人は優しいか」
「うん」
ニッコリと微笑んだ。その笑顔があまりにも幸せそうだった。もう破綻は目の前まで迫っているというのに。
しかし、俺は復讐をするのが良いのか分からなかった。復讐をすれば綾女は、汚される。それが俺は嫌だった。
「そう言えばさ、綾女ちゃんだっけ。雄一は、好きなのかな?」
隣を歩きながら、里帆は言った。なんとなく話のついでに言ったように見えた。
「あの娘、どっかで見たことあるんだよね。どこだっけ。思い出せないんだけど、昨日からちょっと気になっててね」
まさか、それは……。俺は唾を飲み込みながら、里帆の顔を見た。
――――
里帆は綾女のことを何か気づいたのでしょうか。それとも、勘違いなんでしょうか。
読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
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