第3話 アダルト女優を学校に連れて行ったら その2

 俺は経済学部、綾女は文学部だった。お互いに受ける科目が一般教養しか重ならないため、朝の授業は別々に受けた。


 昼休みにカフェに寄る。屋外のテーブルに座って綾女を待った。微風 そよかぜが春の心地よい香を運んでくる。


 ヤフーニュースで来週からは本格的に梅雨入りすると書いていた。屋外スペースを楽しめるのは今週が最後、しばらく混雑している屋内で食べるしかない。少し憂鬱 ゆううつな気分になった。


「お待たせぇ、ごめんね遅くなって……」


 綾女がボブカットの髪を揺らして走ってきた。カフェから遠い場所での授業だったらしい。周りの男子の視線が綾女に集中するのを感じた。


 気にしないふりをしている男子もチラッとは見ていた。綾女は毎日、男の視線を感じて生活してるのだろう。そんな光景、俺には想像もつかなかった。


「大丈夫だよ。走らないで、危ないよ」


「転けないよう気をつけてるよ。大丈夫!」


 綾女は嬉しそうに微笑 ほほえんだ。こんなあどけない娘が、男のモ○をくわ えたり……。慌てて記憶の端によこしま な思考を追いやる。


 綾女はハッと言う表情をして、こっちに視線を向けてくる。俺の前に中腰になってつぶや いた。


「やらしいこと考えてた?」

 俺は視線をはずし、遠くを見て誤魔化した。


「気のせいだよ」


 口角こうかく を引き上げて、じっと見てくる。


「ダメだよねえ、ほんと。こう言う仕事やってると分かっちゃうんだよね。ごめんね、今度から気づかないふりするからね」


「いや、言ってくれた方が嬉しい」


「本当にー、わたし結構うざいよ」


 顔を近づけて、そう言った。柑橘系の匂いが微風そよかぜ に乗って運ばれてきた。いい匂いだった。


「うざくないです。綾女さんなら……」


「へえ、もしかして好きになった?」


 じっと、こちらを向いて視線に興味の色を浮かべた。


「可愛いですし。気にはなりますよ」


「それは喜ぶべきなのかな」


 朝に話していた時と同じだ。綾女は少し悲しそうな表情を浮かべた。


「何かカフェで買ってきますよ」

「ありがとね。じゃあ、コーヒーとサンドイッチのセット。お金は……」


「お金はいいですよ」

「それは悪いよ、待って」

「今日はおご らせてください。貧乏学生でも奢りたい時もあります」


「じゃあ、受け取っておくね。ありがと」


 目の前の綾女は嬉しそうに微笑んだ。


――――


「君、可愛いね。彼氏を待ってるの?」 


 サンドイッチセットを二人分持って、屋外の休憩スペースに戻ろうとしたら、知っている声がした。忘れるわけがない。里帆を寝とった元親友の聖人 まさとだ。


「綾女さん、どうぞ」


 サンドイッチとコーヒーを綾女の方に差し出す。


「ありがと」


 綾女は俺に微笑み返して、聖人の方に向き直った。


「この可愛い娘、お前の彼女?」


 明らかに敵意剥き出しの表情で俺を見た。


「いや、友達だよ……」


「友達ねえ」


 明らかに品定めでもするように綾女を見た。綾女は僅かの表情でも男の邪な気持ちに気づいてしまう。今も気づいている筈なんだけれど。


「雄一、そろそろご飯食べよ。次の授業、遠い校舎だから」


 綾女は聖人を無視して、こちらを見た。あれ、手伝ってくれるんじゃ。ただ、無視したのを喜ぶ自分もいて複雑な気持ちだった。


「隣、座っていいかな」


 カフェでサンドイッチとコーヒーを買った聖人が綾女の隣に座った。俺を無視して、名前を聞いていた。


「酒井綾女です。よろしくお願いしますね」


「可愛い名前だ、綾女ちゃんか。名前そっくりの清楚せいそ な娘だね」


 聖人は綾女に笑みを浮かべて顔を近づけた。


「清楚かな? 自分ではわからないから」


 綾女は聖人から目を外してこちらを見てくる。微笑 ほほえみを浮かべていた。


「何学部の何回生かな。俺、ここによく来るけど君みたいに可愛い娘見たことなかったけど」


 聖人のような女ばかり見ているやつでも目立たない姿の彼女には気づいてないんだ。それにしても俺と一緒なのに、俺を無視して、話すか。明らかに距離も近いし……。綾女はどう思ってるんだろう。まさか、好きになってなんかいないよな。凄く気になった。


 結局、聖人からたくさんの質問をされて、嬉しそうな表情を浮かべ、普通に答えていた。次の授業の時間が近づいてきたため、目の前の綾女は……。


「ごめんね、そろそろ授業だから」

 と言って席を立った。慌てて聖人も席を立って綾女に視線を合わせた。


「あー、ごめん。また会えるかな」

「うん、明日もここに今日くらいにいると思うから。じゃあね聖人くん」


 綾女は俺の腕を握った。聖人の嫉妬に ひずんだ表情が見える。このくらいでもこいつは嫉妬するんだな。


 次の校舎まで歩きながら、俺は綾女の本心が気になっていた。綾女も聖人に落ちたんだろうか。里帆の寝取られから、負の感情ばかり浮かんでしまう。


「あいつ、最悪だよね」


 隣を歩く綾女がとげのある声で呟いた。


「そうなの? なんか楽しそうに話していたから」


「ないない。あり得ないって。里帆ちゃんだっけ。わたしが友達なら全力で止めるよ」


「そうなんですか」


「薄っぺらいし、女好きなの隠せてないし、モテると勘違いしてるし、本当に最低。あんな軽薄な男、まあいないね」


 背伸びしながら答える。155センチくらいかな。背伸びすると俺と同じくらいの背丈になった。チラッと見ただけだが、胸は流石に結構あった。綾女は話しながら僅かに微笑む。綾女には嘘をつけそうになかった。


 結局、次の授業が始まる五分前まで綾女の聖人への愚痴は続いた。こんなに怒るとは思ってもみなかった。


「それにね、絶対あいつより裕一の方がカッコいいから。もっと自信もたないと」


 一緒に帰る約束をしたら、嬉しそうな顔をされた。俺は次の授業の校舎まで走る羽目になったが、綾女の言葉が正直嬉しかった。

 

―――――


綾女と聖人の初めての出会いです。

どうだったでしょうか。


フォロー、星ありがとうございます。こんなにいただけるなんて嬉しいです。

頑張りますので、今後とも応援よろしくお願いします。

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