第2話 アダルト女優を学校に連れて行ったら
目様まし時計のベルが鳴った。もう8時か、昨日は遅くまで優衣と話していたから眠かった。喫茶店を三件もハシゴするなんて人生で初めての経験だった。別れ際に優衣は追加料金なしでいいよ、と笑った。
カーテンを開けると雲ひとつない青空が広がっていた。梅雨の6月に入ったが今日も見渡す限りの快晴だった。
昨日は楽しかった。もちろん優衣はお金を貰ったからあんなに気をつかってくれたのだろうけどれも。里帆との別れから少しは立ち直れたような気がした。スマホの連絡先も交換した。事務所の営業用スマホだろうが。
時間が経ってくると冷静さを取り戻してきた。浮かれていたのが恥ずかしくなってきた。所詮お金の付き合いだ。
俺を喜ばせてるために気のある会話をしてくれただけなのだ。それでも、優衣は可愛かった。また会いたいと思った。三時間でどのくらいお金がかかるのだろうか。
ネットで検索をして価格に驚いた。一時間三万円だった。これならエ○チしとくべきだったか、と少し後悔した。それにしても俺のために九万円も使ってくれたのか。
流石に俺の財力では、これ以上、つきあうことは無理だ。里帆を寝取られたのは腹が立つが、だからと言って優衣を呼ぶことなんて出来るわけがなかった。
スマホの着信音が鳴った。悪友の裕二だった。
「昨日、楽しかったか」
こいつには、もしもしと言う習慣は無いようだ。それはさておき……。
「昨日はありがとう。九万円も良く出せたな」
「あぁ、万馬券が当たってな。泣いてたお前が惨めで驚かせたくなったんだよ。可愛かっただろ」
「驚いたよ、あんな娘いるんだな」
「優衣ちゃんは特別だよ。しかも映像で見るときはキッチリとメイクで決めてるんだけど、普段はスッピンメイクだろ。そこがいいんだよな」
「で、男にしてもらったのか?」
「いや、誘われたけど断った」
「なんでだよ、俺の9万返せよ」
「貧乏学生が返せるわけないだろ」
「だよなあ、それもそうか。まあいいや」
9万も使ってくれた割には、案外あっさりしていた。裕二はあまり金に執着がない。金より友達を選ぶ奴だった。
「お前、元気になったみたいだからな」
「ありがとな」
「いいよ、いいよ。今度は握手会本気で行くぞ」
本当に裕二は優衣が好きなんだな。それはそうと……。
「優衣には、
「そんなことまで言われてるのか。でも、お前お金ないし無理だよな」
「こればかりは仕方がないよ」
話の最後にDVDを送るからと言われたが断った。優衣が知らない男に
馬鹿馬鹿しい。
今日は朝から授業だった。服を着替え、顔を洗って、髪を整えて家を飛び出した。後ろから妹の山本愛の声が聞こえた。朝ご飯を食べろと言ってるのだろう。母親が生きていれば、きっと同じように呼び止められただろう。
「ハロー」
「はい?」
家を出るとすぐ前の庭のベンチに座る女の子がいた。間違うわけはない、優衣だ。今日は薄い茶色と青のワンピースだった。胸のところのリボンが特徴的だった。昨日、やり返そうと言ったから、わざわざ来てくれたのだろうか。
「すみません、俺貧乏学生だからお金ないんですよ。昨日出せたのは友人が出してくれたからで……」
「知ってるよ」
「じゃあ、なぜ待ってくれてたのですか」
「だから、言ったじゃん。君に興味が出たんだって」
「お金ないですよ」
「友達からお金は取らないから、大丈夫だよ」
優衣はニッコリと微笑んだ。
「あとね、私優衣じゃなくて、本名は
「でも、学校に来てもらうのは悪いと言うか」
「気にしなくてもいいよ、私も明治の学生だから」
「はい?」
「どうしたの、そんなに驚くこと?」
「えー、優衣さんも明治大学の学生?」
アダルト女優なんて、馬鹿ばかりと思っていた。賢くて可愛いアダルト女優、全く後半が繋がらない。
「だから、わたしは綾女だって。それと学校では言わないでね。アダルトの、……女優やってること。きっと自主退学になっちゃうから」
「絶対言わない。命にかえて誓うよ」
「もう、
嬉しそうにハニカミながら言ってくる
「綾女さんは大学の何回生ですか?」
「二回生だよ」
「一緒じゃないですか」
「そんなに驚くところ?」
「あまり見ないので」
「普段はもっと地味な格好でメガネとかしてるから……」
「えー、変装までしてるんですか」
「当たり前でしょ。バレたらやばいからね」
俺と綾女は電車を乗り継ぎ千代田区の明治大学まで来た。高校の時に里帆と一緒の大学行こうね、と図書館で勉強したことが思い出された。
「なんか嫌なこと思い出した。もしかして、元カノ?」
俺が浮かない顔をしてるのに気づいたのか、心配そうに覗き込んできた。近いよ、顔が可愛すぎて、やばい。
「ここの大学に受かるために一緒に頑張ったことを思い出したよ」
「そりゃそうか、10年だもんね。忘れる方が無理だよ。で、どうするの?」
「どうするとは?」
「成功したら、きっと里帆ちゃんだって、さすがに
考えたことがなかった。できればやり直したいが。
「今はわからない」
「だよねえ」
優衣は空を見上げながら歩く。見渡す限り
に青空が広がっていた。
「青春だなあ、羨ましいよ」
目の前の綾女があまりに可愛かったので、つい口から本音が出た。
「綾女さんと付き合って青春したい、と言ったらどうしますか?」
「はい? わたしと」
目の前の綾女は、お腹を抱えて大きく笑った。
「もう冗談きついよ、さすがにやめた方がいいよ」
「何故ですか」
「きっと、後悔するから」
真剣な、そして、少し悲しそうな表情で、じっと見ながら言った。
明治大学の正門が見えてきた。みんなびっくりする。横を歩く綾女を見て確信していた。
――――
あまりないタイプの小説だと思います。さて、どうなるんでしょうね。
読んでいただきありがとうございます。沢山のフォローありがとうございます。本当に嬉しいです。今後とも応援よろしくお願いします。
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