4.同居開始と私の色ボケっぷり
三月の頭に、私は大熊さんと同居を始めた。
……寒かった。とっても寒かった。
すみません、山舐めてました。めちゃくちゃ寒いいいいい!
暖房はつけてもらえたからいいけど、大熊さんが困ったように頭を掻いてログハウスの壁の隙間っぽいところをパテで埋めていた。やっぱり手作りだったから隙間風がそれなりにあったわけですね……。
「咲良さん、本当に申し訳ない」
そう言いながらログハウスの壁に布も張っていた。それだけでもかなり違う。寒さのおかげで、私はベッドの間にカーテンをつけてもらったというのに、朝になったら大熊さんにしがみついて寝ていた。
はわわわわわわ! 私の欲望がそうさせたに違いなかった。ごめんなさいごめんなさいと朝起きて土下座して謝った。
「い、いや……咲良さんは、その……」
「はい!」
「俺のような者にくっついていて、嫌ではなかったのかな?」
嫌なんてことあるわけがない!
私はポカン、と口を開けた。
ここで呆然としているヒマはないと、慌てて言葉を紡ぐ。
「い、いいいいやじゃないですっ! むしろご褒美でっ! ってあああ、私何言ってんのー!!」
うかつな性格だという自覚はあります。ホント、欲望ダダ漏れでごめんなさい。また私は頭を抱えた。
そんな私に大熊さんは笑ってくれた。
「咲良さん」
「は、はははははいっ!」
ベッドの上でお互い正座した。
「咲良さんが俺を意識してくださるのはとても嬉しいです」
丁寧語ー。だから私にそんな丁寧に接してくれなくても大丈夫ですー。
「はいっ!」
ええめちゃくちゃ意識しておりますともっ! きっと大熊さんにだったらもてあそばれても悔いはないぐらいにっ!(もう自分でも何を言っているんだかわからない)
「ですが、こういうことはなし崩しにしてはいけないと思っています」
真面目だ。誠実だ。私はそれにもしっかり頷いた。
「……はい」
「なので、もし一年一緒に暮らしてみて咲良さんが俺のことを想ってくださるようでしたら、プロポーズさせてください」
は?
目が点になった。
ぷろぽうず? って何語ですか?
私的にはなし崩しで付き合って、そのまま大熊さんが飽きるまで相手をしていただけたらなーと思っていたのだけど。セフレにされてもいいかなーと思ったぐらい容姿がどストライクでして、はい。
そんな不健全な思考の私に対し、どうやら大熊さんは更に先を考えてくださっていたようだった。いや、もちろんそれはすっごく嬉しいです。だから私はぶんぶんと首を縦に振った。
「あ、でも」
「なんだい?」
あ、しゃべり方がやっと戻った。
「大熊さんが私のこと嫌になっちゃうかもしれません……」
大熊さんは目を丸くした。
「……うーん、多分それはないかな」
「ええっ!? なんでですか? 私すっごくずぼらですし、実家住まいで母の手伝いとかもろくにしてなかったから料理とかも全然うまくないですよっ?」
一応ここに同居が決まってから料理の手伝いはし始めたけどそれだけだ。
「同居だから、最初に決めたルールをお互いに守っていけばいいんじゃないかな。なにかあったら相談すればいいし、もし咲良さんが俺に我慢できないことがあれば遠慮なく言ってほしい。俺も咲良さんに言いたいことは言うから」
「はい……それは、しますけど……」
大熊さんが私を嫌になることはないって、そんなことあるんだろうかと首を傾げた。
「とりあえず」
「はい」
大熊さんがにっこりして、私を抱き寄せた。
「もし寝てる間に抱き着いてきたりしたら、俺に襲われちゃうかもしれないってことは理解してくれるかな?」
「は……はい……」
筋肉! なんて逞しい筋肉! もー、いくら襲っていただいてもかまいませんから!
と私は脳内お花畑状態になった。もちろん大熊さんには言わない。でも、私の顔が真っ赤になったのは見られていただろうから、私の本気も多少は感じ取ってもらえたのではないかと思う。
しかし残念ながらその時は襲ってもらえなかった。
かわいい下着とか、もっと持ってくればよかったなと私は大いに後悔した。
ただし私の頭は常にどピンクだったわけではない。山を下りて森を見に行き、下草の処理の仕方や枝打ちの方法などを大熊さんに教えてもらったりした。そして、危険動物が出た際や、何かがあったらこれを吹いてほしいと笛を渡された。この音が鳴ったらどこにいても駆けつけるからと言われ、やっぱり私は彼にときめいたのだった。
やっぱり私の頭の中はどピンクだったらしい。
嫌われたら困るからもう少し欲望は抑えようと大いに反省した。
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