3.彼との同居に至るまで
大熊さんと同居するにあたって、ちょっとすったもんだあった。
村に着いたその日に大熊さんのログハウスを見せてもらい、その天井の高さに驚いた。
そのログハウスは大熊さんが山の木を使って自分で建てたらしい。電気は通っているがガスはプロパンで、水は山の湧き水を引いたそうだ。トイレは水洗で風呂は大きく、排水などの処理については浄化槽を入れたらしい。浄化槽がなんなのか私にはわからなかったが、本格的な設備を兼ね備えた家らしいということはわかった。
寝室は一つでベッドはキングサイズ。私がこちらに間借りすることになったらソファで寝るとか言っていたから、そんなことはしないでくれとお願いした。
「私、成人してますし……万が一なにかあっても、避妊さえしてくれれば大丈夫です!」
真っ赤になって精いっぱい告げたら、大熊さんは天を仰いだ。
「……咲良(さくら)さん、女の子がそんなことを言っちゃいけないよ」
「でも大熊さんがソファで寝るのはだめだと思います。でしたら私がソファで寝ます!」
「そんなことはさせられないよ。じゃあ……ちょっと考えることにするよ」
大熊さんは折れてくれたが、次にお邪魔した時にはベッドの上にカーテンレールがあって、ベッドの真ん中辺りをカーテンで仕切れるようになっていた。仕事が早くてチッと思った。
森の管理についてはよかったが、大熊さんと暮らすということを話したら父が反対した。
「そんな熊みたいな男と同棲なんぞ許さん!」
いや、同棲じゃないし。同居だし。手を出してくれるかどうかなんてわからないし。できれば大いに手を出してほしいところですが!(超正直)
「じゃあお父さんも会いにいきましょうね~」
母に引きずられて、父は大熊さんに会った。一緒に酒を飲んで意気投合したらしい。どういうことなんだと思った。
「昴君はとてもいい男だな! 絶対に逃がすんじゃないぞ!」
それを聞いてさすがにおかしいなと思った。つか、父よ。変わり身が早すぎるだろうと私は呆れた。こんなに簡単に言うことが覆る人だったなんて知ってたら、もっと早くあの会社も辞めていたのに、とか思わないでもない。いや、転職活動するのが面倒くさくてやっぱり辞めてないか……。
それにしても、私は確かに大熊さんに懸想しているが、何故もう結婚相手のような扱いになっているのだろう。できればまずは愛を育んでから……とは思っているけど、大熊さんは実際のところ私をどう思っているのだろう。
そんなわけで、同居する前に大熊さんに聞いてみた。
「大熊さん、私は大熊さんのことが好きなんですが、大熊さんは私のことをどう思っていますか?」
大熊さんはみるみるうちに赤くなった。こんなひげもじゃでも赤くなるとわかるものなのだなと感心した。
彼はかしこまって答えてくれた。
「その……咲良さんのことはとても好ましいと思っています。ですが、俺は今までそんな風に言ってもらえたことがなかったんです」
「そうなんですか?」
こんなに素敵な筋肉をしているのに? みんな見る目ないなぁ。
私の言っていることが信じられない様子だった。確かに出会ってそんなに経ってないもんね。だったら。
「私、できるだけ大熊さんの邪魔にならないようにがんばります!」
「邪魔だなんて思うことは決してないと思いますよ」
大熊さんは優しく笑んだ。そんな大熊さんの様子に、私はしっかり彼にアプローチしていくことに決めた。
とりあえず、大熊さんは35歳だということを聞き出した。思ったより若い。やっぱりヒゲのせいで年がいって見えたのだろう。35歳ってちょうど働き盛りですね! ますます惚れそうです。
私より10歳以上も年上ということで敬語はやめてもらった。私は丁寧語で話すけれど、と少しずつルールを決めようという話になった。
一応、同居の前にやらなければいけないことは沢山ある。
まずは健康でないとね! ということで母と一緒に健康診断に行ったりした。
それほどの異常があったわけではないが、ブラック企業に勤めていたせいか、ストレスなのか一過性の婦人病にかかっていたようだ。それはピルで治療できると聞いたので、ピルを処方してもらうことにした。半年に一度は検査が必要だということで、その時にまた婦人科にかかることになった。
「……あんな会社辞めてよかったわね。これからはあんたが思うように生きなさい」
母はそう言って悲しそうに笑った。
例え大熊さんに振られることになっても、家でごろごろしているよりはずっといい。私はそんな覚悟で大熊さんとの同居に臨んだのだった。
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