第2話 道具を置くという事

先週の土曜日、友人の自動車会社から連絡があった。

「頼まれてた車、工場出荷になったようだぞぉ~。」

というわけで、今週は住民票などの諸手続きをするために、半休を取ることになりそうな男である。


◇ ◇ ◇


思えば、今の車に乗り始めて16年になる。


厳密に言えば、今年の年末で17年目の車検を迎える予定だった。


異変を感じたのは、節分の声が聞こえていた頃。


「エンジンオイルが漏れてるなぁ~。」

ボンネットを開け、内部を覗き込む友人

彼が指差す先にあったのは、エンジンのシリンダーヘッド部分。


「パッキンの寿命かもなぁ~。」

軽自動車でありながら、

走り続けて16年

走行距離も実に23万Kmに迫る勢いだった。


「エンジン降ろして修理もできるが、年季も入っているし、買い替えたらどうだ?」

そう言って友人は、幾つかのパンフレットを男に渡した。


◇ ◇ ◇


今、16年連れ添った愛車のハンドルを握る男

いろいろな所を共に旅し、喜怒哀楽を分かち合った相棒。

そろそろお別れの時が近づいてきた。


長年使われ続けた道具には魂が宿るという。


「世話になったなぁ。」

ハンドルを擦る男


「次は天国で…逢うことになるのかな?」

苦笑いをし、エンジンを始動させる男


「さぁ、今日も出発だ!」

ハンドルを握り直し、ミッションをDレンジへ…。

車はゆっくりと走り出すのだった。

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