後輩
松山の百貨店で、絵画の展覧会をやっていた。それで、日曜日に奏ちゃんを誘って、いっしょに観に行ってみた。
印象派の絵画を集めた展覧会。
観てまわりながら
「これで奏ちゃんとボクは結婚するねっ!」
って言った。
「あやめっちは先輩じゃないでしょー」
「だから、キスの先輩だよーっ!幼稚園の時からの先輩なんだから...」
「ほんとー?それでいいのー?」
「いいんだよー!占いでも、それを言ってたんだよー」
「そうなのかなー?」
「そうなんだよー」
「それか中学生絵画コンクールで金賞をとったのはボクだから、ボクは金賞の先輩なんだよー」
「うわっ!でも、うちは銀賞だから、金賞のあやめっちの後輩じゃないよ」
「じゃあ、奏ちゃんも早く金賞をとって後輩になってよー」
「えーっ?わかった...」
「ほんとに早く金賞とってね!」
「あやめっちも銀賞とってよー」
「それだと後輩になっちゃうよー」
「あっ、そっかー」
「そうだよー」
「じゃあ、来年は、うちも金賞とらないとだねっ!」
「そうだよっ!ぜったいにとってね!金賞!」
「わかったよー」
それから毎週日曜日にも、奏ちゃんとボクは、松山城のお堀とかに行って、いっしょに風景画を描いている。
「ボクの風景画の金賞はねー、遠近法を駆使したんだよっ」
「遠近法?」
「そうだよっ遠近法わかる?」
「画面の中に、遠近をつけて表現するんでしょ」
「そうだよっ、ペタっとした平面的な絵じゃなくて、奥行きのある絵なんだよ」
「奥行きね」
「風景画だと特に遠近法は大事なんだからねっ」
「そうなんだ...」
「風景画は、それで決まっちゃうんだよっ」
「ほんと?」
「そうだよっボクの金賞の風景画も、松山城をバックにして、手前にある木々の緑をめっちゃ大きく描いて大胆な構図で描いたんだから」
「そうなんだ」
「それくらい描かないと金賞はもらえないよっ」
「へぇー、そっか...」
「先輩らしいでしょ」
「たしかに先輩らしかった」
「やったあああ!これで結婚だね」
「あははは」
「あとはね~草木の緑を描くにしても、いろんな緑あるんだから、塗る時にも、いろんな緑をつくらないとだめだよ」
「いろんな緑ね」
「濃い緑とか薄い緑とか、緑にいろんな色を混ぜて自分で作りだすんだよ」
「うんっ!わかった」
「あとは、これはボクの考えだけど、視点は1つでなくても良いと思うよ」
「視点?」
「いろんな角度から、いろんな視点で描いたのを1つの画面に集めて、全体として風景画にするのも良いって思うよ」
「へぇーそうなんだ」
「先輩ぽいでしょ」
「先輩ぽいアドバイスだった」
「やったあああ!先輩になれたかも!これで奏ちゃんとボクは結婚だあ!」
それからは、本当は、奏ちゃんは中2で、ボクは中1なんだけど、常に学校の中では先輩でいるようにと、そればっかり考えて行動している。
だから美術史の勉強も、奏ちゃんよりもするように決めて、ネットで調べたりして、奏ちゃんの知らないことをより多く知ってる状態にしよう!って思ってる。
絵画の中にはギリシャ神話とかも、題材としてめっちゃ描かれてあるから、絵画の中に出てくる神話の世界にも詳しくなろうって思って勉強している。
いっしょに映画を観に行った時も、先輩らしくしようって思って、ドリンクを奏ちゃんの分も買いに行った。
なんとなく、先輩っぽいかなあ~って思って、奏ちゃんの好きなのも聞かずにジンジャーエールにして持っていったけど、あとから考えたら
「奏ちゃんは、もしかしたらオレンジジュースかも知れなかったから、聞けば良かったなあ~」
って思って、映画を観ながら恥ずかしくなっちゃった...
アイドルに関しても、奏ちゃんよりも先輩になろう!って思って、いろいろ調べている。
ミックスの言い方や種類とかも調べて、アイドル現場にいっしょに行った時も、先輩らしく、率先してミックスやコールやフリコピをして、奏ちゃんに教えよう!って思ってる。
振り付けや歌詞の意味とかに関しても、めっちゃ詳しく調べて、奏ちゃんの知らないことをいっぱい教えてあげよう!って思っている。
クリスマスには先輩らしく、めっちゃ美味しそうなお菓子を買って、奏ちゃんにプレゼントした。
奏ちゃんは
「そんなに先輩らしく、しなくても良いよお~」
って言ってくれるけど
「やだっ常に先輩でいるんだっ」
って思って行動している。
あと、いちばんはっきりしているボクの奏ちゃんよりも先輩であるところは、キスなので、ボクは奏ちゃんに、すきを見てはキスしようって思って、いつでも奏ちゃんの様子をうかがっては、チュッてキスするようにしている。
奏ちゃんも、その瞬間だけは
「ああ、あやめっちは先輩なのかな」
って思ってくれてるように感じたりもする。
奏ちゃんにスケートに誘われた。
ボクはまだスケートをしたことなかったから、行っても、奏ちゃんの後輩になっちゃうからな~、どうしようかな~って思った。
だから、本当は奏ちゃんとスケートにめっちゃ行きたかったんだけど
「ごめん、ちょっとその日、用事あって~」
って断ってしまった。
で、それから日曜日には妹といっしょにスケートに行って、めっちゃ練習して、数もこなして奏ちゃんの後輩にはならないようにしている。
もうちょっと妹とスケートやってれば、奏ちゃんといっしょにスケート行ける日も、もうすぐ近いだろうなあ~って思ってる。
スケートも、だいぶ練習したから、そろそろ奏ちゃんといっしょに行きたいなあ~って思っていたのに、中2で、沖縄の中学に転校することになってしまった。
中学の美術部のみんなも、それから美術の先生も、ボクの転校するのを、さびしがってくれた。
「あやめっちの描く絵をもっと、ずっと見たかったなあ~」
って言ってくれた。
妹の空里は、沖縄の海で泳げるから、沖縄に行くのをめっちゃ喜んでいる。
ボクも、沖縄に行けるのは嬉しいんだけど、松山の街もめっちゃ好きだから、松山を離れることは、とてもさびしい気する...
松山空港から飛行機に乗って那覇空港へ。
松山空港に奏ちゃんはお見送りに来てくれた。
「あやめっち、沖縄に行っちゃったら、松山もさびしくなっちゃうよ~」
「きゃあ、ごめんね~。ボクも松山、大好きなんだよ~」
「また会えると良いね~」
「そうだね~。沖縄の中学でも、たぶん美術部で絵を描いてると思うよ」
「沖縄だと風景画とか動物だとか食べ物だとか人物だとか、描くモチーフいっぱいありそうで良いね~」
「うんっ、なんか、いっぱい描けそう!」
奏ちゃんは、愛媛のマスコットキャラクターである「みきゃん」のぬいぐるみを渡してくれた。
「うちだと思って、いつもいっしょにいてね!みきゃんに話しかけてね!」
「うんっ!わかった!奏ちゃん、またね~。色々ありがとう~」
奏ちゃんはボクのことをギューッて優しく抱きしめてくれた。
今まででいちばん、奏ちゃんのことを1つ年上のお姉ちゃんなんだと感じた瞬間だった。
「奏ちゃんのおかげで、めっちゃ楽しい中学1年生の毎日だったんだよ~」
「わたしも、あやめっちのおかげで、毎日、めっちゃ楽しかったよっ!」
「あっ!そうだっ!」
「なに?あやめっち」
「奏ちゃん、こんどの絵画コンクールで金賞をとってよねっ!」
「えーっ?あっ、そっか!金賞をとって、あやめっちの1年後輩に、あたしはならないといけないんだった...?」
「そうだよー!奏ちゃんにかかってるんだからねー!ボクたちの結婚は...」
「うわっ!責任重大やんかーっ!」
「そうだよー!」
飛行機は那覇空港へと飛んで行った。
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