第12話 捜索【アルフレート】

 アルフレートは学園に向かう馬車の中でため息をつく。あの孤児院については子供の頃からクラウディアとの会話によく出ていた。クラウディアがあそこにいる可能性に気づけるのは、アルフレートしかいなかっただろう。六日間も自分の助けを待っていたかと思うと心が痛む。



 アルフレートはリタからクラウディアの失踪を聞いて、すぐに魔法での捜索を開始した。幸いクラウディアには居場所を感知できるピアスを贈ってある。だから、見つけるのは難しくないと思っていた。王宮の守りも通せるほどの感知魔法が弾かれる理由などない。クラウディアは大事な式典でさえピアスをつけていたので、外している可能性も少ない。


 しかし、結果は芳しくなかった。だとすれば、捜索時に僅かながら必要となるクラウディアの魔力が供給されなかったとしか考えられない。魔法は自然に回復していくものなので、枯渇していて足りなかったということもないだろう。現実的に考えるなら、捜索対象者が可能性が高い。


「なぜ、居場所が分からないんだ」


 アルフレートは認めたくなくて、虱潰しらみつぶしに足を使って捜索した。王女であるクラウディアが行きそうな場所なんて半日もせずに回ってしまえる。いつもならアルフレートに容赦なく苦言を呈すディータも、最悪の事態については触れず、一緒に捜索に加わってくれていた。


 僅かな希望は、闇魔法しか使えないクラウディアが全属性持ちのアルフレートの魔法を弾くほどの防御魔法を発動していること。使用できる属性が増えるほど強力な魔法が使えることは小さな子供でも知っている。それでも、その可能性にかけるしかなかった。


『アル、助けて……』


『――……アルフレートなんて大ッ嫌いだもの』


 失踪して六日目になろうとする深夜。突然感知出来た声にアルフレートは耳を疑った。最初は寝不足と疲れによる幻聴かと思ったが、落ち着いて確認するとクラウディアの居場所も感知できるようになっている。助け出した後の推測になるが、クラウディアが無意識にかけていた防御魔法が衰弱して緩んだのだろう。アルフレートの魔法に打ち勝っていた理由は見当もつかない。


 アルフレートが夜明け前の街を走り回って行き着いたのは、子供の頃からよく知る孤児院だった。アルフレートはすぐに公爵らしい服装に着替えて孤児院に再び向かう。


 顔馴染みの院長が驚きながらも笑顔で迎えてくれた。


「朝早くにすみません。突然お茶会が中止になったので、皆さんに食べてもらおうと思いまして」 


「公爵様ならいつでも歓迎ですよ」


 アルフレートは急遽屋敷で焼いてもらったお菓子を院長に手渡す。受け取る姿からは、動揺などは感じない。クラウディアが孤児院内で拘束されている可能性も考えたが、犯人に脅されていたり、犯人と共犯である可能性は低そうだ。


「ディータ、どう思う」


 院長がお菓子を他の修道女に預けているのを横目に見ながら、自分より冷静そうなディータにコソコソと話しかける。


「隠し事をしているようには思えませんね」


「だよな。俺もそう思う」


 クラウディアの身分を知らないまま保護しているのかもしれない。アルフレートはそう思って修道女の顔を一人一人確認していったが、少し吊り上がった可愛いルビー色の瞳は見当たらない。


「公爵様、実は保護して頂きたい子がいるんです」


 アルフレートがどうやって探そうかと思案していると、院長から相談を受けた。もしかしてと思って行ってみたら、なぜか小さくなったクラウディアがいたのだ。



 動揺してクラウディアの自由を奪ってしまったことは反省している。


 アルフレートの部屋に飾ってある出会った頃の絵姿そっくりなクラウディアは、記憶の中の彼女より影を背負っていて儚げだった。それでも、自分に怯えるほど追い詰められているとは考えもしなかったのだ。


 馬車の中で小さなクラウディアに魔法をかけて調べてみたが、クラウディアは普通の栄養失調気味な女の子に過ぎなかった。姿を偽る魔法の気配や呪いなどの痕跡もない。本の虫だったアルフレートでさえ、現状の推測すらできない。アルフレートの不安や動揺が、クラウディアに伝わっていないと信じたい。



 アルフレートは険しい表情のまま、学園に降り立った。こうなったら犯人を捕まえて、クラウディアを戻す方法を吐かせるしかない。


 大切なクラウディアのためだ。アルフレートはどんな卑劣な事も笑ってできるだろう。

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