第11話 公爵邸【アルフレート】
アルフレートは、嫌がるクラウディアを抱き上げて公爵邸に入った。
「お帰りなさいませ、旦那様」
留守番をさせていた執事のエトムントと、クラウディアの侍女リタが驚愕の表情でアルフレートたちを出迎える。長くそれぞれに仕えている二人には、アルフレートの腕の中にいる愛らしい少女の正体がすぐに分かったようだ。
「リタもここにいたのね」
「はい。公爵様がそのように計らって下さいました」
クラウディアは、リタと再会して嬉しそうだ。
アルフレートがクラウディアの失踪を知ったのもリタのおかげだ。クラウディアが襲われた日の翌日、青い顔をしたリタが公爵家の門前にいるのをアルフレートが学園の帰りに見つけたのだ。リタはアルフレートに会うために公爵邸まで来たが、身分を証明する方法に悩んで門番に声をかけられずにいたらしい。
リタは母が病気との連絡を受け実家に帰ったが、母親はピンピンしていたらしい。リタに連絡をした者もいない。嫌な予感がして慌てて戻った王宮で、クラウディアが前日から帰っていないことを知ったようだ。
アルフレートは正式に捜索しようと王宮に連絡を取ったが、クラウディアは体調を崩して離宮で休んているとの返答だった。そのため、リタとその家族を公爵家の保護下に置き、アルフレートの魔法と公爵家の密偵で密かに探すしかなかった。
リタはクラウディアから離れた自分を責めていたので、見つかってホッとしていることだろう。今の姿を見れば手放しには喜べないが、安否不明だった今朝までよりはずっと良い。
「わたくしは自分で歩けるのに、アルフレートが離してくれないのよ。リタからもなんとか言ってほしいわ」
クラウディアがアルフレートにぐったりと身体を預けながら、リタに訴えている。階段を一人で登れるようには見えないが、リタに心配をかけたくないのだろう。
「それは困りましたね」
リタはクラウディアに同意しながら、気づかれないようにアルフレートに目で詫びる。アルフレートは笑って謝罪を受け入れた。
「しばらくは、この部屋を使ってくれ。隣の部屋は俺の部屋だから、何か困ったことがあったら来いよ」
アルフレートは自分の寝室と扉一枚で繋がっている部屋にクラウディアを案内した。結婚はクラウディアの卒業後の予定だが、早めに整えておいて良かったと思う。
「アルの部屋が近いなら安心ね」
クラウディアはベッドに横になりながらそう言ったので、たぶん色々な事に気づいていない。リタが一瞬疑うような視線を寄越したが、クラウディアの安心しきった顔を見たせいか何も言ってこなかった。もちろん、クラウディアが本来の姿に戻ったとしても婚前に手を出すつもりはない。クラウディアは年齢のわりに色気があったが、中身は今の姿と同じくらい初心なのだ。下手なことをすれば一生恨まれることになる。
「俺は学園に行くけど、帰ってくるまで大人しく寝てろよ」
「うん、ありがとう」
クラウディアが珍しく素直にお礼を言うのでアルフレートは不安になった。馬車での移動は弱ったクラウディアには相当負担だったのだろう。
アルフレートは使用人が持ってきた飲料水を魔法で蒸発させて、代わりに浄化した癒やし効果のある水をたっぷりと入れておく。アルフレートの光魔法は、怪我以外への効果が弱く気休め程度だがないよりは良い。
あとは……
アルフレートは宝石をいくつか持ってきて四隅に配置する。魔力を流し込むと見えない膜ができた。これでこの部屋は世界のどこよりもクラウディアにとって安全になった。
「うわー、えげつない魔法……」
ディータがアルフレートを呆れるように見ている。自分の腕を擦っているが、クラウディアに敵対する気がないなら怖がる必要はない。
「どんな魔法ですか?」
リタが心配そうに聞いてくる。魔法が使えても修行を積んだ者以外には見えない高等魔法だ。リタは禍々しい膜の気配すら感じていないのだろう。
「クラウディアの味方には関係ない。クラウディアに危害を加えようとした者が消えるだけだ」
「それなら安心ですね」
リタは心から安心した様子で力を抜く。ディータがリタのことも呆れたように見ていたが、アルフレートは放っておくことにした。
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