第3話 食堂で
ドラード王国の貴族子女は12歳からの六年間を王都の学園で過ごす。一部の優秀な平民も通っており、将来のドラード王国はこの学園の中で形成されると言っても過言ではない。
クラウディアは午前の授業を終えて、学園の食堂にきていた。賑わっていた食堂は、クラウディアの登場とともに静まり返っている。注文の声が通りやすくて便利だ。
「オムライス、お待たせ致しました」
「ありがとう」
クラウディアは、お気に入りのオムライスをお盆に乗せて、空いている席についた。
表向き、学園内は身分に関係なく平等だと言われている。しかし、王女であるクラウディアに気軽に話しかける者はいない。今年に入ってからは、蜜に群がる蜂のように側にいた取り巻きもいなくなってしまった。
フロレンツが留学し、クラウディアに媚を売っても利がないと判断したのだろう。フロレンツが帰ってくれば元通りになるはずなのに意味が分からない。その時になって再び媚を売られても、クラウディアはもちろん許すつもりはない。
「あら、また一人で食べているの? 婚約破棄されそうだとは聴いていたけど、友達の作り方も知らないのかしら? わたくしは姉として心配だわ」
ユリアがコロコロと笑いながら、多勢のご令嬢を従えてやってくる。お昼の貴重な時間を使って絡んでくるのだから、ご苦労なことだ。
「ご忠告ありがとうございます。お姉様の周りにも友人はいないみたいですけど、大丈夫ですか?」
クラウディアはもぐもぐと昼食を味わいながら、ユリアの周りの令嬢を睨みつける。去年までクラウディアにベタベタ付きまとっていた者も混ざっている。短い期間でユリアにうまく取り入ったのだから逞しい。
「何を言うの? こんなに素晴らしい方々がいるじゃない?」
「そうですわ」
「失礼ですわよ」
顔を引きつらせながら否定するユリアに、令嬢たちが加勢する。クラウディアはオムライスを飲み込むと、大袈裟にため息をついた。学園の食堂のオムライスはふわふわと柔らかい卵がたっぷりと乗っていて格別だ。
「お姉様は肩書に群がるハエを友人と呼んでいるのかしら? 人を見る目を養った方が良いのではなくて? わたくしは妹として心配だわ」
「なっ!?」
ユリアは自覚があるのか青筋を立てた。兄のフロレンツは姉妹よく似ていると言うが、どこも似ていないと思う。
「クラウディア殿下、声を荒らげないで下さいませ!」
プラニセプス侯爵令嬢がクラウディアより大きな声で割って入る。言い返したそうなユリアを視線で止めて、ハンカチをさり気なく握らせた。フロレンツの話では、プラニセプス侯爵は第二王子派の筆頭らしい。難しいことはよく分からないが、娘である彼女は『気をつけた方が良い令嬢』だそう。
「酷いわ、クラウディア。私はあなたのことを思って言ったのに!」
ユリアが突然大きな声を出してさめざめと泣き出した。数日おきに続く茶番劇に反応するのも面倒だ。クラウディアは黙ってオムライスを食べる。クラウディアがどうしようと、悲劇のヒロインになったユリアは変わらない。
「あなた達も良くこんなお姉様の近くにいられるわね。お馬鹿な姉の取り巻きをしていても得るものは少ないのではなくて?」
ユリアがまだキャンキャン言っていたが、クラウディアは急いでオムライスを食べ終えて席を立つ。今日もオムライスは最高だった。本当ならプリンも追加したかったが、後ろ髪を引かれる思いで食堂を出た。
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