自由なき平和
いつもと変わらない平凡な日常は突如として終わりをむかえた。
「うわあぁぁぁ」
その男はなぜか上空にいた。地上からどのくらい離れているのかはわからないが、家が豆粒よりも小く見える。
経験したこともない浮遊感。そして、落ちている感覚がまるでない違和感。
人が飛行機や気球もなしに空を飛べるわけがない。
まして、ついさっきまで家の中でくつろいでいたのだ。
本来ありえない状況。すぐさまスマホで警察に助けを求めるが······。
この状況に陥っているのは一人だけではなかった。
「助けてぇぇぇ!!!誰かあぁぁぁ!!!」
「落ちるぅぅぅ!!!」
「イヤァァァァ」
もしも全世界規模で起きていたのなら、一体誰が助けられるというのか。
そもそも電話しても繋がらないし。
『やあやあ諸君、初めまして』
どこからともなく声が聞こえた。
『私は地球生まれの火星人だ。ニュースを見た人なら知っているだろう。あれが私だ』
『さて、なぜこんなことをしたのか説明しよう。私が住んでいる星に攻撃してきた国がいてね。いちいち相手にするのも面倒だから、地球勢力と戦争をすることにしたんだ』
『目の前に「戦争」という文字と「奴隷」という文字があるだろう。選んでくれ。制限時間は5分だ』
すぐに選ぶ者はいなかった。
今この状況を理解することで精一杯だった。
やがて、
「奴隷になんてなれるか!俺は戦争を選ぶ!」
誰かが選択した。
「うわあぁぁ」
落ち始めた。
全てを理解した。喧嘩を売ってはいけない化物に喧嘩を売り、人類は負けたのだ。
奴隷を選ぶしか生き残る道はなかった。
5分が経過した。
『やあ可愛くない奴隷諸君。君達の処遇は悪いようにするのでそのつもりでいてくれ。今まで通り生きてもいいし、犯罪を犯すのも自由だ。ただ突然消えることがある。実験場に送られたんだなと思ってくれ。命令を下すこともある。守れなければ実験場送りだ』
『それではまた』
自分の部屋に戻っといた。
何度も見た安心できる風景は簡単日常上書きされてしまった。
数日後
人類の6割が死んだことが判明した。
奴隷という選択肢を選ぶ者は少ない。特に植民地支配を受けていた国のほとんどの人々は落下した。
あの時、あの瞬間こそが人類に許された最後の自殺する権利だったのだ。
あの言葉を聞いたあと窃盗や強姦といった罪を犯す者はいなくなった。
犯そうとした瞬間に消えるのだ。
奴隷にはもはや何の権利も残されていない。
何をしたら駄目なのかも教えられない。
社会インフラはもはや残っていない。
暴動も発生前に鎮圧される。
世界はある意味で良くなったと言えるのかもしれない。
人の経済活動が縮小化したことで自然が復活し始めいてる。
人の言葉を使うだけで、地球の代弁者だったのではと今では囁かれている。
奴隷を選んだ生き汚い身だ。
さあ、明日も頑張ろう!
その男は姿を消した。
〈終〉
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