ゾンビーナス

 絶世の美女。

 誰が見てもそう答えるほどの美貌を、持ち合わせたゾンビがいるかもしれない。

 世界三大美女が四大美女に変わるレベルだ。

 

 こんな救いのない世界で、俺はその美貌を持ったゾンビに食われる為に旅をしている。


「ぐぇえー」


 あっ。ゾンビが襲ってきた。


「オラー!死ねー!」


 刀で首と胴に分ける。


 その状態では、流石のゾンビも動く事はできない。


「ちっ。男のゾンビかよ。ぺっ!」


 汚いゴミカスに汚い唾。

 この世に綺麗なものなんて残っていない。


 その後は、唾を付けてない胴体の方を火で燃やし、口に入れてよく噛んだ。


「不味い」


 しかし、他に食べ物なんてない。

 幸いなことに火で炙れば食える。ゾンビにもならない。

 元は人だったので、食べるのを躊躇った時期もあるが、空腹に勝てるわけもなかった。


 あ。ゾンビがまた来た。しかも多いな。


「君が代は

 千代に八千代に

 細石の巌となりて

 苔の生すまで…」


 君が代というのは天皇の治世という意味らしい。


 さっきのに神話天皇いた気がするけど、気のせいか!


 そもそも日本ないからいっか!


 「こっけはも~ぉ 枯・れ・た!」


 カチャッ


 突然。何か、機械の音がした。


「動くな!武器を捨てろ!」


 人間か?

 とすると、持ってるのは銃か?


「てめえが捨てろぉおおー!」


 後ろを振り向き、斬りかかろうとするが······


 パンッ


 乾いた銃声


 右足からは血が出ている。


「ギャアー!」


 嫌だ!

 俺は美女のゾンビに食われて死にたいんだ!

 銃は嫌だ!


「ごめんなさいぃいいいーーー!!!」


 慌てて刀を捨てて踞(うずくま)る。

 踞る瞬間、チラッとだけ仮面が見えた。

 傷を恐れているのだろう。少しの傷がゾンビになる原因になる事もあるので、理にかなっている。


「どこで刀を手に入れた」

「刀鍛冶やってるところを調べて盗みました」

「武器はそれだけか?」

「包丁もあります」


 懐に入れておいた包丁も捨てる。


「そうか。とりあえず場所を移動する。ここだとゾンビどもが来るからな」

「はぁ」


 仮面野郎は刀と包丁を持って走る。

 仕方なく、俺も走った。

 足がくそ痛い。


 しばらくすると、家に着いた。

 それも、ただの家ではない。金属のドアや高い塀。深い溝まである。


 中に入ると、自給自足できそうな庭やら何やらが揃っていた。


「いやぁー、しかし、まさか自分以外の生存者がいたなんてな」


 仮面野郎は仮面を脱いだ。

 なんてこった。個性がなくなっちまった。

 というか、野郎じゃなかった。

 なんと、女だったのだ。


「まるでアダムとイブみたいじゃない?」

「別に」


 なんか声色変わった?


「興奮しないの?この状況で?好みじゃない?」

「愛がないと、ちょっと」

「面倒臭いな!」


 そんな事言われてもなぁ~。

 てか、足痛い。


「二人で人類再興でも目指してんの?珍しい」

「そうそう。こんなシチュエーション憧れてたんだよね。もしもゾンビが来たらって考えてこの家も作ったし」


 ほーん。

 生きる意思が中々ある。

 これは、良い。


「んじゃ、ちょっとトイレ」

「あっち」

「OK」


・・・


「お待た」


 ブーブーブー


 警報音が聞こえた。


「そんな!ゾンビが中に入ってきたの!?」


「早く逃げないと!」


 バンッ


 ドアがぶち破られた。


「グォオーー!!」


 女は銃で応戦するが、まるで歯が立たない。


 俺は戦っている隙に後ろに回り込み


 ドンッ


 女の背中を突き飛ばした。


「えっ?」


 女はゾンビに噛まれた。


「イヤァアアあああっ!」


 一噛みされた後で、ゾンビを刀で殺す。

 入ってきた他のゾンビの首もはねた。


「何で、こんな事を······」

「必死に生きようとする君の姿を実に美しかった。だから、君に殺されたい」


 女は何を言っているのか理解できなかったが、とにかく睨み、考えつく限り全ての罵倒をシャワーのように浴びせた。



 そして、二人はゾンビになった。




〈終〉

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