人魚

 その男は情熱に燃えていた。


「人魚だ!」


 猛烈ダッシュで正体不明の物体に近付く。


「これは!?アザラシじゃないか」


 男は肩を落とした。



 男はこの島にたったの1人で生活している。

 他の人間は生きているのかも分からない。

 船も地図もないので、男は無闇に海を渡ろうとは思わなかった。


 本で読んだ人魚姫。あれなら、こちらに来てくれるはずだ。

 そう思って、毎日毎日、海を探していた。



「ハハハハハハ」



 でも、本当は分かっていたんだ。

 だって、あの本の最後のページには


『この物語はフィクションであり、実在の人物 団体 事件とは一切関係ありません』


 と、書かれている。


 少しだけ、ほんの少しだけ。

 寂しさを紛らわす為に、信じてしまいたかった。

 それも、今日で最後だ。


 そう思い、海を探索すると、巨大な魚影を見つけた。

 男は近寄ろうとしたが、一目散に逃げ出した。 


 


 人魚

 上半身が人で、下半身が魚の、伝説の生物だ。


 

 それが今、伝説ではなくなった。


 下半身が食われ、悲鳴をあげる様は、まるで歌のように響いた。


 

 こうして、最後の人間も、魚に食われた。





〈終〉

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