少年ハッピー

 その少年は独りだ。

 父親は戦争で死に、母親は若い男とどこかへ行った。

 母親は少年と別れる時にこう言った。


「必ず帰ってくるから、待っててね」


 そして、父親の形見である指輪をくれた。


「もう一個はお母さんが持っているから、離れていてもずっと一緒よ」


 別れ際、母親は笑っていた。



 少年は独りだ。

 だから、働いた。

 できるのは簡単な仕事だけだ。荷物運びやら、朝の新聞配達やらだ。しかし、それで稼いだお金の9割は家賃で消し飛ぶ。

 

 少年はよく森に入った。食べれる木の実やキノコを集める為だ。たまに毒キノコを食べてお腹を壊す事もある。それでも、空腹よりはマシだ。


 ある時、少年は奇妙な男と出会った。


「これは!?ハッピー。良い指輪を持っているな」

「うん!父さんの形見なんだ!僕の宝物さ!」


 名乗っていないのに、その名を知っていた。


「ほう」


 奇妙な男は、悪い笑顔を張りつけた。


「その指輪を貸してくれないか?代わりに、父親を生き返らせてやろう」

「本当!」


 一切の疑いなく、少年は指輪を渡してしまった。


「本当に、良い指輪だな。危ないから、少し離れろ」

「このくらい?」


 3歩下がる。


「まだだ」

「このくらい?」


 7歩下がる。


「では······」


 奇妙な男は、あっという間に消えてしまった。


「え?」


 少しして、少年は理解した。指輪は泥棒に盗まれてしまったのだと。


「ど·········ぐっ」


 叫んでも無駄だ。

 もう、間に合わない。


「ぐすっ······ぐすっ」


 泣きながら少年は家に帰った。


 仕事に身が入らず、上司からは殴られた。



 少年は指輪が売られたと思い、宝石店を回った。

 そして、同じ指輪を見つけた。でも、全てが同じわけではない。中に文字が刻まれているのだ。その指輪には母親の名が刻まれていた。


 少年は悟った。

 もう母親が帰ってくる事はないのだと。

 だから、指輪も、もういらない。




 少年も青年と言えるほどまでに成長した。

 そして、戦争の為に徴集された。


「ああ、父さんもこんな気持ちを味わったのか」


 隣にいる。そんな気がして、嬉しそうにしていた。


 少年・・は銃に撃たれて死んだ。その少年を嘲笑うかのように、持ち物は奪われた。





〈終〉

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