第19話
どこの集落も入らずにイリスを目指すのは中々に無茶であることは分かっていた。
しかし前回のような事を受けて入る気にもなれない。もはやこの辺りは敵の手によって陥落したものと考えても差し支えない。
俺達は獅子身中の虫、ということだ。
故郷に思い入れもなければ戦争なんてこんなものと割りきっている俺にはなんて事はないが、リゼにとってはその胸中は今だ晴れやかにならない。
目の前で起きている全ての事を未だに信用できない、という面持ちだ。どこかで今起きていることが夢であってほしいとさえ考えているのではなかろうか。
しかし、そんなことを言っても始まらない。
バイセルンは戦火に焼かれ、国は破れた。そして生きることに必死な人々が生きるために人肉を食らう。昨日まで知人であった人々がナイフを手に持って刺し合う。
それが国が滅びた後の現実なのだ。
その滅亡する国がたまたま我々の国だったに過ぎない。世界のどこかでは同じような事が起きているのだ。
もし彼女が単なる一平民であればバイセルンにいてもよかっただろう。奴隷とはなっても死ぬことはない。
しかし騎士となると話も変わってくる。その責を問われることになる。
しかも女性であるから徹底的に辱しめられるだろう。何度も慰みものにされた挙げ句、戦争の責任を取らされる形で処刑、というのがごく普通の女騎士としての終わりになろうか。
力には責任を伴う。それを望む、望まないにしてもだ。
泣きつかれたか、リゼは涙の跡を拭うこともなく眠っている。
眠気覚ましの雑草を齧りながら彼女の顔を見ていた。
騎士の家に生まれてきた責任、と言われたら簡単だが、20前後の、まだ大人になったとは言い難い彼女にはあまりにも重すぎる状況のように思う。
少なくとも傭兵としてあちこちを歩き回る俺のような無責任な生き方をしていると、彼女の背中に積み上がったものを考えてしまう。
所詮一平民から傭兵になった俺には分からない重圧なのかもしれない。彼女の変わりに背負いこみたいとも思わない。
だからこそ同情してしまう。
お前もその若さで大変だな、と考えてしまう。
ただ、イリスまでいけばアイゼンシュタット家のご令嬢という事で手助けしてくれる奴もいるだろう。
そこから先は俺の出る幕でもない。
ならばそこまでは付き合ってやろう。
彼女よりは背負い込む責任はないが、年長者として出来ることの一つくらいはあるだろう。
ゆっくり眠るのはその後でよいだろう。
そこまでのエスコートだけはしてやろう。年長者として。
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