第18話
リゼは返り血も拭わず歩き続けた。
もう集落は遠い。俺達はまた焚き火をして夜を過ごしていた。
「なあ、ウォール」
「どうしたんだい。リゼ殿」
リゼは容器に入れられたスープをかき混ぜながら心憂げに聞いてきた。
「あれでよかったのだろうか」
やはり彼女の行動は心にしこりを残したのだろう。
「さあね」
俺は生返事をした。
ここでどっちの答えを返しても納得しないだろう。
「だが、ああしないと殺されていた。違うかい?」
「そうだ。そうなんだ。だからああした」
「ならいいじゃないか」
「だが、やはり殺す必要なかったように思うんだ」
「……そうかもな」
否定はしなかった。
俺だって必要だからやっているだけで、理由がなければ殺すことなどしたいわけではない。
だが、理由が生まれた以上避けられないのも事実であった。
「ウォール。私はな、分からないんだ」
「何を」
「やっぱり私は死ぬべきだったのだろうか、って」
リゼはスープをかき混ぜながら鼻を啜り始めた。
「私もバイセルンの騎士としてあの戦いで死んでいれば民に手を掛けずに済んだのかもしれない、と思うと、私が生きていたからこんなことになったわけだから、やっぱり死んでいた方が救われた命もあったのかな、って思うと、その、あの」
段々と言葉に詰まっていき、そして泣き始めた。
「うえええぇぇぇぇ……」
俺はスープをのみながらそっとリゼの頭を撫でた。
二十歳そこらの、まだ大人になりきれていない子にここ数日は重すぎた。騎士としてどう生きるかすら固まっていないうちに国が滅び、野に放り出されたのだ。そして人間の醜いところを何度も見せつけられて、普通耐えられるわけがない。
「騎士殿はよくやっるよ」
返事はなかった。
ただただ彼女は泣いていた。
可哀想ではあった。もし平和な世の中に生まれていれば流す必要のない涙であっただろう。
しかし人は生まれる時代を選ぶことは出来ない。
生まれた時代を甘受する以外に方法はないのだ。
だからこそ必死に生きなければならないのだ。
少なくとも俺はそう思う。
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