第17話
ある程度は食った。
そして軽めに休んだ。窓から外を眺めると空が銅色に染まっている。やるなら今しかない。
荷物を乗せながらゆっくりと立ち上がった。
「行けるか?」
「……ああ」
腹が満たされて少しだけ落ち着いたか、リゼも話し始めた。
一瞬だけ「俺の事をどうみているか」と考えた。しかしすぐに振り払った。そんなことを考えてどうするというのだ。
今は生きることが最優先だ。
「いいか。リゼ殿。歩いてきたところを正面突破だ。最初歩いてきた道以外は何かしら罠があると思え」
「……ああ」
「ただ向こう見ずに走るな。とらばさみ一つに引っ掛かったらおしまいだぞ」
「……ああ」
「よし。いい返事だ」
いい返事な訳がない。だがここで士気が落ちたり変な喧嘩をしている場合ではないのだ。哲学は平和を勝ち取った後にやればいい。
「行くぞ!」
声と同時にドアを思いきり開けた。
老人が吹き飛ぶ。やはり見張りがいたか。
立ち上がる前に俺達は走り始めた。
「俺が先導する!リゼ殿は必死についてきたらいい!」
力のあらんかぎり俺は駆け出した。
「敵が逃げ出したぞ~!」
どこからともなく声が聞こえ、がらんがらんと鐘の音が鳴り響く。どこから聞こえてくるか分からないほどに。
「これが、これが」
「考えるな!死ぬぞ!最悪自分の身は自分で守れ!何がどこから飛んでくるか分からん!」
そういうと同時に俺の頬を刃物が横切った。鎌だ。
奴さん、本気で殺すつもりだ。
「騎士様からは首だけでもいいと言われている!殺せーっ!」
すると鎌があちこちから投げられてきた。
もう飛びはねながら避けるのが精一杯だった。
「騎士殿!大丈夫か!」
「あ、ああ!大丈夫だ!少しかすったが」
「なら走るぞ!背中は荷物にぶっ刺さるだろうからとにかく足元だけ気を付けろ!」
「ああ!分かった!…おかげで、目が覚めたよ」
「ああん!?なんだって!?」
「気にするな!とにかく走るしかないんだろう!?行くぞ!」
「お、おう!」
鎌の飛び交うなか、俺達は思いきり走った。
すると段々この集落の長がいた家の近くまで来た。もうすぐだ。
その時であった。
長が槍を持って立っていたのは。
「お前らを取り逃がすと我々が裏切ったと思われるでな!」
先ほどまでの人のよい感じはなくなっていた。
この戦いはもうどちらかが死なないと決着がつかないのだ。
しかし剣と槍では部が悪い。
はてどうするか、と思った時だった。
後ろから影が横切ると男に飛びかかり、あっという間に組伏せたあと、長の首を跳ねたのは。
辺りは首のなくなった長の鮮血に染まった。
その血をリゼは受けながら、長の髪を掴みゆっくりと立ち上がった。
「ここの集落の者共!聞け!」
聞き慣れない怒号が響く。そして辺りはしんとなった。
「お前たちの長の首を落とした!これ以上抵抗するなら、このバイセルン公国騎士、リゼルヴァ=アイフェンシュタットの名の元に利敵行為とみなし、集落に住む全員の首を落とす!老若男女関わりなく、だ!いいか!もう一度言う!抵抗したら殺す!」
ここまで憤怒する姿を俺は知らない。
よほど堪えたのか。
「勿論皆殺しだ!いいか!皆殺しだ!!!!!」
声に辺りはしんとなった。
金属が地面に落ちる音が聞こえる。
そしてゆっくりと集落の民が両手を挙げながら出てきた。
「そうだ!抵抗さえしなければ殺しはしない!繰り返す!抵抗さえしなければ殺しはしない!だが、一人でも危害を加えようと企てた時は一蓮托生、皆殺しだ!!!!いいな!!!!」
一人、一人と色々なところから暗い顔をしながら出てくる。
「それでいい。それで」
リゼの声が震えている。
俺はそっとリゼの背中についた。自分だけ生き残ればいい、と攻撃をしてくる奴がいる可能性はある。
まだ気を抜いてはいけない。
集落の民はぞろぞろと出てくる。
ある程度集まったところでリゼは思いきり長の頭を彼らの元に投げた。
「ひぃっ!」
悲鳴が聞こえる。
「行くぞ。ウォール」
「あ、ああ」
阿鼻叫喚の集落を俺達は後にした。
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