第16話

抜き身の剣を持ったまま俺は窓を見ていた。

恐らく二人を殺したことは早かれ遅かれ気付かれるだろう。そしてそれは徹底抗戦を意味する。

だとするならば、早めに逃げなければならない。これだけ小さな集落でも全てを斬るのは無理があり、よしんば全て斬ったとしても「バイセルンの奴らが集落を皆殺しにした」という事実だけが残ると厄介だ。こういうのは尾ひれがついて「大義名分」というとんでもない怪物を生んでしまう。

だから逃げるに越したことはない。


だが、体が重いのは事実だ。

所詮仮眠しか取れていない俺にはどれだけ持久力が持つか分からない。


それはリゼにしたってそうだ。

この時彼女は自分の感情を押し殺す事だって出来たはずだ。しかしそれは出来なかった。彼女にも譲れない矜持というのはあっただろうが、体に纏わりつく疲れが思考を低下させている。

だからもう我慢ならずに感情を爆発させたのだ。


「とりあえず逃げるぞ。騎士殿」

「……」


彼女は唇を結ったまま首を縦にも横にも振らない。下手に触れると危険か。


「返事しなくていいから聞いてくれよ騎士殿。まだ戦闘は続く。俺達が望むか否かに関わらず、これ以上に悲惨きわまりない可能性もなきにしもあらず、だ。その度にこのようにむくれるのは困る。だから一回深呼吸して行動をするんだ」

「……」

「俺達は今回みたいに無抵抗な人に手を掛ける可能性もある。いいか?」

「……」

「少なくともイリスに行くまでは信じれるのは誰もいないと思っておけ。俺の事を信じられないなら斬ってくれて構わない。ただしイリスまでは俺に刃を向けてくれるな。そこまでは面倒みてやるから」


俺は荷物から適当にパンやらの食料を取り出してそれを口にし始めた。とりあえず食えるだけ食っておこう。少しでも荷物は減らしたいが捨てるには惜しい。


「騎士殿も食っておけ」

「……」


リゼは黙ったまま口に含んでいた。

そうだ。それでいい。

人間極限状態に落ちた時、最後に求められるのは飯を食えるガッツだ。飯を食う気力があれば生きる気力が沸き、生命力の血肉と変わる。


生きるために食うのだ。



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