第13話

「ウォール!何故お前は長のご厚意を!」


小屋に入った俺にリゼは捲し立てた。

しかし、小娘の話なんか聞いていられない。


「おい!ウォール!」

「うるさいぞリゼ殿」

「静かにしていられるか!お前はなにを」


リゼの言葉を遮るかのように俺は柄に手を取った。


「お、おい。ウォール」

「しーっ」


ゆっくりと、音を立てずに小屋の中を歩いていく。やたら立派なベッドが二つに簡易的だが料理台があり、下に戸棚がついている。

俺はベッドの前に来ると、ベッドに剣を思いきり突き刺した。


「ぐえっ!」


手応えを感じた。そのまま剣を押し込むと誰もいないはずのベッドが揺れ動く。ついには掛け布団まで真っ赤に染まり始めた。


「ウォ、ウォール…」


突然の事にリゼは腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

そして彼女の目の先には血に染まったベッドが一つ出来上がった。


「後天的な手だな。隣にもいるんだろう?死にたくなかったら出てこい!」


声が小屋の中に響くとゆっくりとベッドが動き始め、その中から鎌を持った老婆が震えながら出てきた。

しかしここで手を抜くわけにはいかない。俺は剣を抜くと老婆の首に切っ先をぴたりと貼り付けた。


「ひぃっ!」

「さあ、吐いてもらおうか。何故そこにいるんだ?」

「わ、わしの住みかで」


その言葉と同時に剣を老婆の首に食い込ませた。


「嘘を言えば首が飛ぶことになるぞ?隣の奴のようになりたいか?」

「ひぃっ!やめてけれ!」

「さあ、吐け。命と仲間、どっちが大切なんだ?」

「お、長が!長がやれと!」

「何故長はやれと言ったんだ?」

「知らねえ!知らねえ!」

「じゃあここでお別れのようだな」

「やめてくれ!やめてくれぇ!言う!言うから!」

「じゃあ言え」

「フィランツの騎士様達に言われたんだよ!バイセルンの騎士を引っ捕らえたら金がもらえるって!騎士の生死は問わねえって!」


その言葉にリゼは青ざめていた。

そして俺が何故同じ小屋を選んだのかも理解できたのだろう。瞳に涙をためていた。


「そうか。よく分かった」

「助けてくれだぁ。許してくれぇ」

「そうだな。婆さん。戦場を知っているか?」


ここで小屋の空気は変わった。


「戦場ではな。下手に敵を生かしてはならない、と教わるんだ。恨みを覚えられて不意な時に復讐されるからな。お前の右手にあるそれはなんだ?」


老婆の顔が青ざめる。

鎌が床に落ちた音だけがやたら響いた。


「武器を持って俺達を殺そうとした。傭兵から言えば、もうここは戦場で、アンタは兵士なんだよ。婆さん」

「や、やめ」

「やめろウォール!」

「迂闊に踏み込みすぎたな。婆さん」


剣は振り切られ、老婆の首の肉を切り裂き、吹き出した血で小屋は染まった。

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