第14話

「殺す必要はなかった!」


二つの死体が転がる中、リゼは激昂しながら俺に掴みかかってきた。


「この老婆は戦う意志を失っていたじゃないか!何故殺した!?」

「殺されるからに決まってるだろう」

「殺すと決まっていないだろう!」


俺は少し反省していた。

あまりにも衝撃的な光景であったか、と。


「じゃあ騎士殿はどうしたらよかったんだ?」

「それは」

「騎士殿が大人しく首を差し出すのだったらそれでよかったな。この老婆は命とはした金が残った。別にそれでも悪いとは言わんよ」

「……」

「騎士殿。おたくここで生かしておけば本当にこの後殺されなかったとでも思ってるのかね?」

「それは…っ」


唇を噛み締めている。悔しそうだ。その悔しさを吐き出す場所がなさそうで苦しんでいるように見えた。


「おたくだって分かっていたはずだ。この集落がフィランツに手を貸した時点でな。生かしたところで次の刺客はやってくると」

「……」

「そしてそいつらを生かしたままだと生き残ることすら出来ないと」

「なら…」


リゼは感情を爆発させた。


「ならなんだというのだ!私の考えは偽善とでもいうのか!」

「ああそうだね 」


しかし、その爆発を俺は許さなかった。


「自分の命を差し出すか、他人の血を啜っても生き延びるか、の選択をしている場面でおたくは生きることを選んだんだ。それで他人の血を啜ることを拒否するのはいくらなんでも都合がよすぎるんだよ」

「……」

「おたくの手を汚せとは言わねえよ。だがな。あのじじいに首を差し出せないなら黙っていろよ」


唇を噛み締めながらリゼは黙っていた。歯の刺さったところから血が出ている。そしてぼろぼろ涙を溢していた。


「これが、これが敗戦なのか…。これが、戦に負けたということなのか…っ」

「……多分な。リゼ殿」


小屋には少女の嗚咽だけが響いた。


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