第11話
「…きろ、おい…」
「起きろ!ウォール!」
リゼの甲高い声に俺は目を覚ました。
辺りは太陽の光が包み、風に混じった緑の香りが鼻をくすぐる。
目の前の焚き火は消えてしまっていた。
「寝ていたか…」
「疲れていたんだろう?」
「疲れていない、といえば嘘になるな」
抱き抱えていた剣を鞘ごと腰に戻し、立ち上がってうんと体を伸ばした。
ヴィソー平原は驚くほど広く、どこまでも草の緑と地面の茶が拡がっていた。
驚くほど風が心地いい。俺は少し機嫌よくなっていた。
どうやら死体漁りは襲ってこなかったようだ。
所詮は盗人になりきれない人間がやる行為だ。日の落ちるまでは出来ないようだ。ここから盗人になるのか全うな道に戻るか、はこの夜を越えてから、なのかもしれない。
「少ししたら行きましょうかね。リゼ殿」
「リゼでいい、と言っているだろう」
リゼは殿をつけるなと言っているが、どうも傭兵稼業が長すぎたらしい。どれだけ小馬鹿にしていても敬語をつけないとこそばゆくなるのだ。
「そんな事より朝飯だ。パンでいいだろう」
「ああ。勿論だ」
俺達はバイセルンから北へ渡っていた。
フィランツは南からバイセルンを襲ってきているから南に逃げるわけにはいけない。となると北のバイセルンと同盟を結んでいるケリッシュ国に逃げるほかない。
ケリッシュ本国に行くにはヴァロセル山脈を越えなければならないが、それでもケリッシュの騎士団がヴァロセル山脈の街、イリスに駐在しているはずだ。
そこで上手いことやってケリッシュ本国に入れれば……。
イリスに入るには何点かの集落を渡ることになる。
ただ、それはあくまでバイセルンが平和だった頃の話だ。バイセルンがなくなった今どこまでフィランツに堕ちているか。集落に入った途端に拿捕なんてのも十分ありうる。
イリスまで生き延びれるか。旅路はまだ重そうだ。
「…しっかしまあ、しっかりとお食べになることで」
「?」
パン一つに頬袋を膨らませている世間知らずを見ながら苦笑した。
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