第10話
太陽もベローネ山に消えていき、段々と夜の静けさが辺りを包んだ。
俺は一人、じっとしたまま先ほどのスープを作った焚き火に薪をくべた。
多くの事がありすぎたと感じたのだろう。リゼは倒れ込むように大地に寝そべり、寝息を立てている。
正直に言えば眠い。俺にも一日のダメージは大きい。リゼにダメージがあるように俺にも疲れはある。
しかしこの焚き火を消すことは俺達の生を保障しない事に等しかった。夜は人間だけではない。野良の狼一匹に食い殺される可能性だってある。
食うか、食われるか。
だから一人は必ず起きていなければならない。
そんな世知辛い旅の一部を世間知らずの嬢ちゃんに押し付けるにはまだ酷な話だ。いずれはやって貰うことになるのだが、今はまだその時ではない。野良犬一匹倒せないだろうし。
その辺りに生えていた雑草を噛みながらじっと薪をくべる。
雑草の苦味と口を絶えず動かすことで眠気を解いているのだ。いかにこういう旅路に慣れているにしたって眠いもんは眠いのだ。
月明かりがヴィソー平原を照らす。
照らされたヴァロセル山脈は煌々と輝きを放っている。頭が白くなっているから冬の訪れも遠くない。
つまりこの旅は早期に決着をつけなければならないのだ。
飢えは凌げても寒さを凌ぐのは至難の技だ。
しかし、その場合どうなるのだろうか。
彼女は一人で生きていけるのだろうか。
少なくとも俺は生きていけるだろう。たまたま宿主を見つけただけの傭兵上がり。傭兵に戻って戦争のある場所を転々とすればいいだけだ。
しかし、この世間知らずにそれが可能なのだろうか?
傭兵が戦場に向かうには様々な方法があるが、現地に集合、という言葉一つで過酷な旅を強いられる時だってある。
確かに傭兵の報酬は高額だが、それは行き帰りの駄賃込み、なんてのはザラなのだ。
俺もそれが嫌で傭兵を辞め、自国バイセルンに戻ったのだ。祖国自体にさほど興味はなかったが、それでも地元ってのはなにかにつけて働くには便利な場所だ。
それを失ったこと自体は残念だが、これもそういう運命と覚悟を決め直すだけだ。
だが、こいつにそんな事出来るのだろうか。
これから多くの事に対してショックを覚えるだろう。理不尽な事を、特に亡国の女騎士、というだけで堪えがたいような事を何度も経験するだろう。
そんな過酷な事を耐えられるのだろうか。
確かに俺には関係ない。
大概俺も若いわけじゃない。世間知らずとは年齢が下手したら一回り違う。経験だけは人一倍だが、体力は少しずつ落ちていることを実感している。
こいつを俺が面倒見るには年齢が近すぎるし、伴侶とかそういう家族関係になるには遠すぎる。
こいつはいつか一人で生きていって貰うしかないのだ。
そこまで俺は責任を持てないから。
そんな事を知らずにぐっすりと眠っている。
どこかあどけなさを残す寝顔であった。
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