第8話
その後も何度か死体漁りを切り伏せた。生き残るための戦いに予断は許されない。
ただ、一つだけ意外なことが分かった。襲われた際のリゼは容赦なく斬るのだ。最初こそ元国民として躊躇いがあっただろうが、亡国の責任として自分の命を捧げる、なんて考えには至っていないようだ。
流石にこうなってくると近付く輩も少なくなる。欲に駆られた人間が襲い掛かってきたわけで、死体漁りの大半は命と欲を天秤にかけている。最終的に食えるだけのものを手に入れられればいいと感じた輩は自然と命を賭けにはこない。
自然と追いかけてくる奴は減り、なんとか走るところから早歩きでも問題ない場所くらいまでは来ることが出来た。
しかし、俺もリゼも体力は尽きかけていた。緊張感を切らさず走り続け、しかも何度か剣を交えたのだ。安心感と共に疲れがどっと押し寄せてきたのだ。
「ここまでくれば安全だろう」
その言葉にリゼの顔が緩み、そのまま座り込んだ。
俺ですら立っているのが精一杯だ。女性なら尚更疲れは深刻だろう。
ぜぇぜぇと言いながら腰をおろしたプレートアーマーの女はもう騎士の面影を残していない。
「とりあえず襲われる心配はないんだな」
「いや、ゼロじゃない。というよりは街の外に出たらいつだって襲われる可能性はあるさ」
「そうか。いや、そうだな」
だから俺はまだ柄に手を掛けていた。正直なところ最後の力を振り絞っている。
もう少し先にいけば戦場と言われる範囲から外れるのでもう少し楽になるだろう。そこでゆっくりと休憩を貰うつもりだ。所詮俺達は人間、休まないと全力で戦うことすらままならない。
「ウォール」
「なんだ、ってうおっ」
リゼは俺に何かを投げてきた。手に取るとそれは竹で作られた水筒であった。
「飲んでおけ。もう少し無理をしてもらわんとならん」
「申し訳ないな。騎士殿」
俺は水筒を口につけると一気に飲み干した。既にリゼが飲んだのであろう、中身は半分ほどであったがそれでも十分すぎる。
体の中に抑え込んでいた乾きが一気に吹き出した。飲み終えるとそれをリゼに返す。また何かと使うであろうから。
「ありがたい。騎士殿のおかげでもう少し無理できそうだ」
「リゼ、だ」
「はい?」
「もう私は騎士ではない。リゼで構わん」
この期に及んでどうでもいいことを言っているのかと思いもしたが、無下にする必要もなかろう。
「分かったよ。リゼ」
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