第6話

流石に戦闘の一つは避けられなさそうか。

バイセルン郊外はもう死体に群がる人であろう。彼らとは必ず一戦は交えることになるだろう。そうでなくてもこちらは武器防具に食糧を持っているわけで。


「騎士殿」

「……」


リゼは答えない。答えるほどの精神的な余力を持たないか。


「自分の身は自分で守ってくれよ」

「……」

「ああ、あと。今から斬る奴等は国民とか思わないようにな」

「何故…?」


多くの事を言いたく思った。しかしそれはあまりにも無惨な現実を見せるような気にもなった。


「ま、幻滅するだろうってこった」


空を見ると烏が飛び回っていた。

そこそこ人で溢れかえっているな、と思いながら剣に手を掛ける。こうなってくるといつ抜くことになるか分からない。

郊外に出た瞬間あらゆるところから喧騒が聞こえてくる。


「ウォール!…あれは」


人が死体に群がって争っている。

自分が取りっぱぐれないように我先にと。

老若男女関係ない。とにかく自分の手柄を得ようとあらゆるものを奪い合っている。


改めてこの国が陥落したことを実感させられた。

確かに今まで何度もこういう事を経験してきたが今回は数が多すぎる。もはやこの奪い合いは殺し合いに発展していくだろう。

ここで金目になるものを手に入れておかねばどちらにせよ食うものが手に入れられなくなって死んでしまうからだ。

今目の前で起こっているのは人間が人間でいるための食らい合いなのだ。人間でいるために獣に戻ったのが彼らなのだ。


「騎士殿」

「な、なんだ…」

「走れるか?」

「あ、ああ」


リゼの返事を聞いた瞬間俺は走り出した。それと同時に彼女も後ろからついてくる。

とにかくこの場から逃げ切らないといけない。


しかしやはり俺に比べると遅い。

女性がプレートアーマーを着ていればそうもなろう。そもそも走れるだけ彼女の身体能力が高いことを思い知らされるほどだ。


どこからか声が聞こえてくる。

それが俺達を見つけた事に気付かないわけがなかった。


「騎士殿!」

「な、なんだ!」

「最悪脱げるものは脱げよ!」

「分かった!」


決死行が始まった。

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