第4話

リゼの頭を叩くかのような事が起きた。

ある程度食糧やらなんやらをかき集めた俺達は敵に気づかれる前にさっさと街から出ようとした時だった。


「何か声が聞こえないか?」


リゼはおもむろにそう俺に告げた。

耳を澄ませるが風の靡く音しか聞こえない。いや、どこから遠くからカラスの鳴き声が聞こえてくる。死肉を啄みにきたのだろうか。

空耳だろう、と言いかけた時であった。風に紛れて掠れた唸り声が聞こえてきたのは。


「……けて……」

「やっぱり!」


リゼは慌てて声のする所を探し始めた。確かに声は小さいものであったが遠くから聞こえてくるようなものではなかった。

しばらく探索しているリゼを眺めていたところ、彼女は今までで一番明るい声を出した。


「ウォール!いたわ!こっちに!」


リゼに呼ばれたので俺は気だるい気持ちを引き摺りながら歩いた。戦場であることを考えたら長居は無用。一刻も早く出たかった。


「たす…け…」


声の主は倒れた家の下から聞こえていた。

屈んでみると確かに人がいる。


「ウォール!助けましょう!」


彼女は瞳を輝かせながら言った。

騎士としての義憤に溢れているのかもしれない。

しかし俺の返事は彼女に怒りを覚えさせた。


「冗談じゃない」

「貴様それでもこの国の兵士か!」


俺の態度に声を荒げずにはいられなかったのだろう。彼女は金髪を振り乱しながら思いきり胸ぐらを掴んできた。


「確かに貴様は傭兵上がりかもしれない。だが雇われたとはいえこの国の民を守り、助ける義務というものがあろう!それを貴様よくもぬけぬけと!」


俺は黙ったまま下を指差した。言っても無駄だろうと感じたからだ。


「なんだ!」

「ちゃんと現実を見ろって言ってんだよ騎士殿。ちゃんと確認しておけば助けるとかどうとか言わなくなるはずだ」


その言葉を聞いたリゼは怪訝な顔つきになって俺から手を離すとゆっくりと顔を下ろしていった。

その直後、彼女は咳き込みおえおえと吐き始めた。


それもそうだろう。

柱に顔をめちゃくちゃにされた、かろうじて生きているような、先程まで人間だったものがいたのだから。

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