第3話

俺は無言のまま食糧をかき集めていた。

買う、とか、手に入れる、という美辞麗句で済まされるものではない。文字通り盗んだ。ただ持ち主もこの世にはいないので厳密には盗んだと言っていいものか。

リゼは全く動かなかった。動けなかったのかもしれない。彼女にはこの光景は悲惨であったのかもしれないし、俺達兵士がこういった事をやっている、ってのが堪えたのかもしれない。

しかし泣こうが喚こうが事実は事実というやつで、彼女の瞳の奥に浮かぶものが何かなど俺には興味がない。今は道徳よりも生きることの方がよっぽど大切だからだ。


「ほら騎士殿。荷物持ちくらいは出来るだろう」

「あ、ああ…」


適当な家から袋を奪い、そこにあった食糧を詰めてリゼに渡す。荷物持ちくらいはしてくれないと困るのだ。


「なあ、ウォール」

「なんだい騎士殿」

「私の屋敷に寄らせてくれないか」


ある程度荷物を纏めた頃、彼女はそっと聞いてきた。


「あそこには色々なものがある。食糧だってあるだろう、それに」

「駄目だ。敵の拠点になっている可能性があることくらい分からなくはないだろう」


リゼが何をしようとしているのかは分かった。

今の火事場泥棒が気持ちいいものではない、というのもあるからせめて自分の家から持ち出そうとしたい、という気持ちがあるのだろう。

親が生きていなくても使用人の一人でも生きていれば、せめてどういう死に様だったか聞けるだろうし、それが後顧の憂いを経ち、復讐への足掛かりになるだろう、とでも考えているのだろう。


言葉に出したように敵の拠点となっている可能性があることもあった。

だがそれ以上に自分を知る人の無惨な死に様をみて興奮されるのだけは避けたかったのだ。


「分かっているが…ただ」

「騎士殿は敵兵が現れたら対処出来るのか?そうでなくても敵兵に見つかる可能性があるというのに。このままいても仲間を呼ばれて多勢に無勢だ。そうなったらお前だけ死んでくれ。不利な状況はごめん被る」

「……」


先程よりは力なくではあったがまた俺を睨み付けてきた。

最早敵がいるとは思わなかった。いるならば今頃この辺りも敵でぐちゃぐちゃだろう。

まだこの国を治めるために遣わされた本隊が到着しておらず、そこの準備に追われている、とみたほうが自然だ。

そのために騎士や伯爵の邸宅を仮の宿として使っている可能性は高いので、この辺りを構う余裕はないはずだ。


「どうしてそこまで冷酷でいられるのだ。ウォール」


ぐずりながらリゼは聞いてきた。

煩わしく思いながらゆっくりと息を吐いた。


「傭兵上がりってのはそんなもんなんですよ」

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