2.失えなくて
俺は筆を置いたつもりだったのに、こうしてまた文章を書いている。
それもそのはず、誕生日の絶望の朝に全てを無くそうともがいたあげく、結局は失えないんだ、ということに思い当たったからだった。
とてつもなく遠回りしたけど、蘇生のタイミングはふいに訪れる。自分ではコントロールできない復活の合図が、この闇も引き連れて、心を突き動かした。それはまるで、水面下に隠れた氷山の、海底に眠るその地盤を、根底から揺るがすような力を秘めているかのようだった。
そんな俺の気持ちを受け入れてくれた彼女の愛の深さも感嘆に値する。それは決して簡単なことではなかったはずだから。随分と悩まなく、心の疲弊を伴うことだったはずだから。
複雑に絡み合った糸が、運命の力に導かれるようにして解けていく。
そして改めて「お誕生日、おめでとう」そう言ってくれた彼女の頬に安心の涙が流れて、
俺はこの平穏をまた変わらずに守り育んでいきたいと心に誓う。
遠ざかっては、近づいて、
近づいてはまた遠ざかっていく。
それでも俺たちの行く先にはまだ、
得体の知れない不安が付き纏っている。
二人で足並みを合わせて、その不安を安心に変えながら、なんとか歩みを進めたい。
そう思った誕生日の午後のこと。
キミという遠近法 Tear @kinmokusei_again
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。キミという遠近法の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます