第27話 疑心暗鬼

 クソッ、このままではやられてしまう。動け俺の体。


 俺は体を動かそうともがいた。


 腕輪に手を触れさえできれば……。


 そのとき、オーガミッドの背中に白い光が当たって、それがバラバラに弾かれた。ウィザティーンの杖から光が出てそれがオーガミッドを直撃していた。


 床、壁、天井をその光が破壊していく。それは俺にも向かってきて俺に直撃しそうになった。


 その瞬間に体が動かせるようになり俺は壁から崩れ落ちた。壁の崩れた破片が俺の背中に当たる。


 俺はそれを無視して腕輪に手を触れた。水色の短い杖が出てきた。


 すると、けたたましい音が部屋を覆った。見ると、みんなが一斉にオーガミッドを攻撃している。


 俺は急いで杖をつかみ直して立ち上がった。


 オーガミッドは四方八方からの攻撃を受けて手に負えなくなっている。


 俺はオーガミッドに向けて杖を振った。


 水色の光が流れ星のように飛んで行き彼に直撃した。それから風が巻き起こりその体を持ち上げて天井に体をぶつけ地面に叩きつけた。

 

 オーガミッドは倒れたまま動かない。

 それがきっかけでみんなは攻撃をするのを止めた。


 俺は近づいてオーガミッドの様子を見た。


「やったのか?」


 ソルティオルが誰ともなしに言う。


「さあ、どうかしら」


 ウィザティーンが倒れているオーガミッドに杖を向けながら答える。


 ミミヌイが俺に気づいて近寄って来た。


「シュガさん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

「そう、よかった。あ、ほら、あそこにラクアピネスさんがこちらを見て立っていますよ。シュガさん」


 そう言ってミミヌイはその方向に人差し指を向ける。俺はその指の先にいるラクアピネスを見つめた。


 ふと、その足元にいる生き物に気がついた。


「あ、あの犬とか猫って……」


 俺はミミヌイにそのことを言うとミミヌイはそこに目を向けた。


「犬と猫。ああっ! もしかして私の探している対人円満の犬、ハーメ二ちゃん!? その近くにいるのはひょっとして疾風迅雷の猫! ジャメニちゃんじゃない!」


「疾風迅雷だと?」


 いつの間にかソルティオルが来てつぶやいた。


「ああ! あれは拙者の探している疾風迅雷の猫、ジャメニ!? それと対人円満の犬か!」

「きっとそうですよ。こんなところにいたなんて」


 ミミヌイはうれしそうに言った。それから俺とソルティオルに顔を向けた。


「行きましょ、あそこに私たちの求めるものがあるわ」


 ミミヌイは背中を向けて歩き出す、俺たちもそのあとに続いた。


「おい! 奴が立ち上がるぞ!」


 ボローボの声が部屋中に響いた。

 俺たちは振り返りオーガミッドを確認した。


 両手を床につき体を起こすと、ブルブルと小刻みに震えながら立ち上がった。


「お、おのれ……」


 オーガミッドはメガネを整えながら周囲を見回した。ひとりひとりの顔を見ているようにゆっくりと見回していく。


 すると肩を小刻みに動かして笑い出した。


「ククク……ははははは……」

「何がおかしい!」


 俺はにらみながら言った。彼は笑いをこらえながら返した。


「いや、あまりにもお前が間抜けなんでな」

「どういうことだ?」

「こういうことさ」


 オーガミッドは手を叩いた。すると一瞬閃光が走り俺たちの目をくらました。


 辺りを覆っている閃光がなくなると、部屋はさっきよりも静かになったような気がした。


 オーガミッドは腕組みをして余裕の態度を取っている。


 俺は杖をオーガミッドに向けながら言った。


「みんな、今のうちに攻撃を」


 俺の言葉に誰も反応しない。隣にいるミミヌイとソルティオルまでもが。


「みんな、どうしたの?」


 みんなはぼーっとオーガミッドを見ている。魂が抜けたように。


 ソルティオルが歩き出しながら言った。


「拙者はお主を利用していただけだ。拙者はオーガミッドのほうに今度はつく」

「え?」


 ミミヌイは俺の肩に手を乗せて言った。


「ごめんね。もう、シュガさんにはうんざりしているんだよ。何も出来ない人と一緒にいたくないから。今までは悪いと思ってつき合ってただけなんだよ。もう勘弁なんだよ」


 そう言い残して、ミミヌイは俺から離れていきオーガミッドのほうについた。


「シュガルコールさん。わたくしはあなたをお守りするのはもう嫌なんです。どうせ他人に何もかも任せるのでしょ? わたくしはもう疲れました」


 リジュピッピはオーガミッドのほうへ歩いて行く。


 俺はいたたまれずに言った。


「どうしちゃったんだ? みんな? 今まで、ここまで一緒に来たじゃないか。共に。なのにどうして!」


「おこちゃまだねー。ボーヤはわかってないのさ」


 マドワレが俺に妖艶な笑みを見せながら言った。


「あたいたちはボーヤを助けたいんじゃない。自分たちを助けたいんだ。わかる、言ってる事」


 マドワレはオーガミッドのほうへ歩き出す。


 みんなが俺を見ている。少し笑っているような、見下したような、そんな微笑みを見せて。


「ぼくも弱いやつは嫌いだ。自分のことすら守れない君がね」


 ポワティガはそう言ってオーガミッドのもとへ歩く。


「あなたを占ってみたけど、あなたの人生はお先真っ暗さ。自分の意見もまともに言えないそんなあなたをあたしは助けたくないねー」


 ラップポロントは小さなガラス玉を手のうえで踊らせながらオーガミッドに近寄った。


「言ったろ。次会ったときはてめぇの命の保証はないって。てめぇの命も守れねぇガキに、俺さまがそいつを助けると思うか? 答えはノーだ」


 ボローボは俺をにらみつけながらオーガミッドのほうへ近寄った。


「やれやれ、やっと気づいたのかい。貴様を利用してやってたんだよ。今までずっと。気づかなかっただろ。そりゃそうさ、だってみんな、演技をしていたんだからねぇ」


 えっ!? 演技? 嘘だっ!


 ウィザティーンがオーガミッドの隣に立ち、全員がこちらを向いている。


 それは、俺をあざわらうようなそんな嫌な雰囲気を出していた。


 俺はめげずに言った。


「みんな! 騙されちゃダメだ! みんなはオーガミッドに操られているんだ。だから目を覚ましてっ!」


 誰も何も反応しない。俺の声がみんなに届かない。何を言っても。


 俺は杖をオーガミッドたちに向けた。

 杖を持つ手は震えていた。そんなことしたくないと俺の体が勝手に反応している。


 俺はそのまま後ずさりした。


「あっ」


 床の出っ張りにつまずいて尻餅をついた。

 その途端、クククやハハハといった。笑いが俺の耳に入ってくる。


「そういうことだ、シュガルコール。お前の妄想だ。すべてがな」


 ぎらついたような笑みをオーガミッドは見せながら言った。


「……やれ」


 オーガミッドの号令で全員が俺を襲ってきた。

 俺は急いで立ち上がり逃げるように走った。


 それは、ラクアピネスのもとへと。


 ラクアピネスはただ黙って俺を見ている。俺から逃げることも恐怖に怯えることもなく、ただ黙って立っていた。


 数メートルまで近寄って、あと少しでラクアピネスの手に触れられる、そう思った瞬間。


 俺はつまずいて倒れてしまった。


 うつ伏せで振り向いてみると床のへこみに足が引っ掛かりそれで転んでしまったようだ。


 俺はうつ伏せのまま手を伸ばしてラクアピネスの手をつかもうとした。


 ……届かない。


 後方から笑い声が聞こえて来る。

 俺は床に体を引きずらせながら手を伸ばした。


 頼む、ラクアピネス。俺の手をつかんでくれ。


 俺の目の前にいる女神は光りをまとっている。

 何かの反射が目に入り俺は床を見た。そこには1枚のカードが落ちていた。


 これは? メーティルレシュアサーカス団のカード。


 俺の頭の中で過去の出来事が蘇った。

 

『これは?』

『それを太陽の方角にかざして、メーティルレシュアショーって言えばいつでも駆けつけるから。あたしたちのサーカスが見たくなったらそうして』


 そのとき太陽の光がカードを光らせた。


 俺は叫ぶように言った。


「メーティルレシュアショー!」


 パァン! と空気が弾かれて。途端に辺りが強制的に劇場に変わった。


「どうも皆さん、メーティルレシュアショーに来ていただきありがとう。司会のメーティルです」


 壇上にいるのは花や葉っぱなどの植物を身に着けた司会の女性、メーティルだ。


 みんなは呆気に取られてそのショーを見ている。


 俺は立ち上がりラクアピネスの手をつかんだ。

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