第26話 集まる仲間

 ラップポロントはオーガミッドを攻撃しに向かった。彼女はオーガミッドの分身を自分の前に出させて、それを操って攻撃を仕掛けていく。


「お怪我はありませんか? シュガルコールさん」

「はい、大丈夫です。リジュピッピさん、それにラップポロントさんもどうして?」

「わたくしたちは、わたくしたち同士の戦いが意味のないものだと気づいたのです」

「意味がない?」


「はい、ラップポロントさんと話し合って決めたのです。オーガミッドがわたくしたちの本当の敵なのだと。ラップポロントさんが言っていました。『ラクアピネスは誰のものでもない、彼女自身が選べばいい』と」


 ふと、リジュピッピは辺りの様子を見て言った。


「ソルティオルさんとウィザティーンがいますが」


「ああ、ドアの先にウィザティーンが待っていて。俺はソルティオルに先に行かされて……彼がそこで戦ったけど、彼らも話し合って一時休戦しているみたいなんだ。でも、オーガミッドの力で押さえつけられて動けないでいるみたい。俺も同じく体が動かせないけど」


「そうですか。シュガルコールさんはここで休んでいてください。わたくしたちがオーガミッドの相手をします」


 そう言ってリジュピッピはオーガミッドに向かって行った。


 ラップポロントは自ら出したオーガミッドを操り人形のように攻撃させている。リジュピッピは回し蹴りや正拳突きなどを繰り出しながら攻撃を仕掛けていった。


 オーガミッドはそれらを両手で弾き返しながら防いでいく。


 オーガミッドの拳から繰り出される空気砲のようなものがリジュピッピとラップポロントに当たり、ふたりは吹き飛んで壁に叩きつけられた。


「ラップポロント。お前、そいつを倒す約束ではなかったのか?」


 手で服を叩きながら立ち上がるとラップポロントは言った。


「気づいたんだ。あなたをやればいいってね」

「ラクアピネスが欲しいのではなかったのか?」

「欲しいさ、でも、あなたはまた取り返しに来るだろう、契約通りに進んでも。それか、もう渡さないか」

「フンッ、なるほどな、さすが占い師だ」


 リジュピッピは起き上がり再びオーガミッドに拳を出して向かって行った。


 オーガミッドはパチンと指を鳴らすと、四角い透明な箱がリジュピッピとラップポロントを閉じ込めた。ふたりはその箱に攻撃を繰り出しているが破壊することができなかった。


「ふう、やれやれ。じゃあ……」


 オーガミッドはそう言って俺の目の前に飛んできた。


「続きをやろうか」


 彼は剣を出して俺に突き刺そうとする。俺は体を動かして抵抗しようとしたが、やはり動かなかった。


「待ちな!」


 ドアを見るとミミヌイとマドワレが立っていた。

 オーガミッドは剣を俺から離すと今入って来たふたりを見た。


「そこのボーヤはあたいがやるんだ。あんたに邪魔はさせねーよ」


 そう言ってマドワレはポケットから錠剤を出して床にまいた。そこからマドワレが何人も登場した。その分身たちはいっせいにオーガミッドを襲った。


 オーガミッドは俺から離れてマドワレたちの相手をしている。


 ミミヌイは走りながら近寄ってきて言った。


「シュガさん。大丈夫ですか?」

「うん、でも体は動かせない、オーガミッドの力で」

「そうなんですか」

「それより、マドワレと戦ってたんじゃ?」


「ええ、でも決着がつかなかったんです。そしたら彼女が『やーめた。あたいはあたいでラクアピネスを手に入れる』って言ってきたので、それでここに」


「そ、そうなんだ」


 ミミヌイは周りにいるほかの人たちを見た。


「リジュピッピさんやソルティオルさん。ほかにもウィザティーンとラップポロントさんもいますね」


「うん、ミミヌイさんたちが戦っていたあいだも、先ではあのふたりが一部屋ごとに俺たちを待っていて、そこでこちらも、ひとりずつ出てその戦いに挑んで行った。でも、お互いに話し合って休戦し一緒にここに来たというわけなんだ」


「ふうん、そうだったんですか……」


 ミミヌイは俺のほうへ笑顔を見せた。


「シュガさんはここで休んでいてください。私たちがオーガミッドを倒して来ますから」


 そうして、ミミヌイはダーツを取り出しオーガミッドに向かって行った。


 マドワレたちは剣や鎖鎌といった物で攻撃を繰り出し。ミミヌイはダーツを何本も出してはオーガミッドに放っていった。


 オーガミッドはそれらを空中に浮きながらかわして、目を一瞬だけ赤く光らせた。


 すると、マドワレ分身たちはマドワレ本人の腕や足をつかみ動かせなくした。


 ミミヌイの放ったダーツが向きを変えて、ミミヌイ本人へ飛んで行く。そのダーツは変化して鎖になり彼女の腕や足を縛って壁に貼りつけにされた。

 

「マドワレ、そこにいるラクアピネスが欲しいから、そいつを倒す約束をしていたのではなかったのか?」


 オーガミッドは呆れたといった様子で話しかけた。


「ああそうだ。けど、あんたをやったほうが都合がいいんでね。あんたを先にやるほうに決めたんだ」

「……ふん、まあいい。そこで大人しくしていろ」


 オーガミッドは周囲を見回した。それから俺のほうへ歩いて来る。


「邪魔が入ってすまないなぁ、すぐにあの世へ送ってやるから安心しろ」


 剣を再び出してそれをつかみ、だんだんと近寄って来る。


 みんなこちらを見ている。


 皆それぞれが、そこから出ようと体を動かして苦しい顔をする。くもの巣に捕まった蝶のように。


 そして、俺の目の前にオーガミッドが来た。俺に剣を突き立てる。


 俺は言った。


「オーガミッド、頼みがある」

「頼み?」

「ああ、俺をやる代わりに、そこにいるみんなを助けてやってくれないか?」


 オーガミッドは振り返りそこにいる者たちを見回した。


「そうだなぁ……」


 と、つぶやくと俺のほうに向き直り言った。


「お前がラクアピネスを諦めるなら考えてもいい。お前はここでやられずに、あいつらも生きて帰そう」


 ラクアピネスを諦める。ラクアピネスとみんなを天秤にかけるのか。


「悪くない条件だろ」

「シュガさん! ダメよ! シュガさんはラクアピネスさんを手に入れるためにここに来たんだから!」


 ミミヌイが俺を呼び止める。


「シュガルコールさん。わたくしはあなたが選んだほうを信じます。ですから、あなたは自分の信じた未来を選んでください。本当に信じている未来を」


 リジュピッピが俺をさとす。


「お主はお主の考えを貫け。それはお主が選んだものだ。拙者たちを気にするな!」


 ソルティオルの声が俺の背中を押す。


 みんな、俺は……。


「どうした? 長考か。ならば終わりだ」


 オーガミッドはそう言って、剣を俺の胸もとへ突き刺そうとした瞬間。その剣をドアのほうへ投げた。


 カキン! と剣が弾かれる音が聞こえる。そこに立っていたのはポワティガとボローボだった。


「チッ、また邪魔が入ったか」


 オーガミッドはポワティガたちをにらみつける。


「俺さまを忘れてもらっちゃ困るぜ」


 ボローボが魔獣を呼び出した。大きなオオカミとドラゴンを出してオーガミッドを襲わせた。


 ポワティガは俺のほうへ来て言った。


「シャガルコール。大丈夫か?」

「ああ、オーガミッドの力で俺は動けないけど。ふたりは戦ってたのでは?」


「うん、それでぼくが勝ったから、とどめは刺さずに部屋を出て行こうとしたんだ。でも、ボローボがぼくを呼び止めて言ってきた『待て、俺さまをやらないなら手伝わせてくれ。このままでは俺さまは帰れない』と、それでラクアピネスは? と聞いたら『この戦いの後で狙う今度は正々堂々と戦ってな』と返してきて、それでここに来たんだ」


「そうなのか」


 ポワティガはその部屋の様子をうかがった。


「ウィザティーンやラップポロント。マドワレまでいるね」

「うん、わけあって彼女たちもオーガミッドと戦うことになった」

「そうか。今度はぼくたちがオーガミッドの相手をするからシュガルコールは我慢してて」


 そうしてポワティガは棒を振り回しながらオーガミッドに立ち向かって行った。


 ボローボは魔獣を操りながらオーガミッドに攻撃を仕掛ける。ポワティガはそれに混ざり隙をうかがっては棒で攻撃を繰り出していく。


 オーガミッドは両手に剣を持ち片方は魔獣たちをもう片方はポワティガの棒を防いだりしている。


 戦いながらオーガミッドは言った。


「ボローボよ、お前はそいつを倒すはずだったのではないのか?」

「負けたんだよ。だからそいつと手を組むことにしたんだ」

「なるほど……どいつも、こいつも……」


 オーガミッドは持っている剣を投げ捨てると、ポワティガとボローボに両手を向けて空気砲のようなものを放った。


 ふたりは壁に叩きつけられて、その壁に貼りつけになった。


「遊びは終わりだ。お前らまとめて地獄に送ってやる」


 オーガミッドは腕を交差させると力をため始めた。


 途端に部屋が揺れ始める。彼の体の周りに赤い渦が覆っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る